内容説明
日本からの密偵に通訳として帯同した細川。ロシアの鉄道網拡大のために派遣された神父クラスニコフ。桃源郷の噂に騙されて移住した孫悟空。地図に描かれた存在しないはずの島を探し、海を渡った須野。日露戦争前夜、満洲の名もなき都市に呼び寄せられた人々は、「燃える土」をめぐり殺戮の半世紀を生きる。広大な白紙の地図を握りしめ、彼らがそこに思い描いた夢とは……。第13回山田風太郎賞受賞作。第168回直木三十五賞受賞作。
目次
序章 一八九九年、夏
第一章 一九〇一年、冬
第二章 一九〇一年、冬
第三章 一九〇一年、冬
第四章 一九〇五年、冬
第五章 一九〇九年、冬
第六章 一九二三年、秋
第七章 一九二八年、夏
第八章 一九三二年、春
第九章 一九三二年、秋
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
クプクプ
78
満州国をつくり、満州鉄道を敷く。大連はわかりましたが、新京とは長春のことでしょうか。スンガリーやコウリャンなどは聞いたことがある名称でした。王道や覇道という言葉や内地という単語は、年配の方が頻繁に使いますよね。年代は違いますが、沢木耕太郎の深夜特急は、大陸をバスで横断する話で、地図と拳は、大陸北部を鉄道で横断するテーマだととらえました。差別用語も出てきますが、かつて日本軍が行った行為の一部を読者が想像するためには、必要な用語だと思いました。下巻に続きます。2025/07/05
Shun
36
列強の植民地政策が進み世界は近代国家間が覇権を競う時代となっていた。西洋文明を取り込み急速に力をつけた日本もまた侵略の機運が高まり、対ソ連を念頭に満州を狙っていた。物語の始まりは戦略的な要衝地である満州へと二人の密偵・高木と通訳の細川が調査に来たことから始まる。そこで二人は重要な情報を持ち帰り、やがて戦争は激化し日露戦争は現実となった。戦争は何故起こるのか、タイトルに込められた意味が重い。地図の為に争いが起こり、また地図を描くことで未知の世界へと人々の想像力を駆り立て、そして数多の思惑が地図上で交錯する。2025/08/03
olive
33
架空の都市・李家陳を舞台とし、戦争によって滅びるまでの50年余りを描いた物語。密偵として満州に渡った高木大尉と学生で通訳の細川。冒頭からピンチ!ロシア兵にスパイだと見破られて殺されちゃう?ここで、丸眼鏡へなちょこ通訳の細川退場か?と思いきや!細川こそが物語のカギを握る男として最後まで登場する。意外と早くに退場するのが高木だったのに驚いた。李家陳という町で、燃える土(石炭)を見つけた高木と細川。李家陳という町を、乗っ取った孫悟空。物語のはじまりは、この三人が関係しながらすすんでいく...下巻につづく2025/07/06
geshi
24
満州を舞台に日露戦争前夜から太平洋戦争終戦までを描く群像劇。感情を入れない乾いた文章で淡々と描かれているから、余計に登場人物たちに思いを馳せてしまう。世界とは、認識である「地図」と戦争の「拳」でできている、というテーマを刻銘に徹底して見せつける。歴史的な出来事が現在進行形で起こっているかのようなリアリティーを持ちつつも、李大綱と孫悟空のエピソードのようなエンタメ性高いエピソードもあって、視点もあっちこっち行きながらも読ませるんだから、とんでもない構成力だ。2025/07/05
Kazuo Tojo
21
「このミス 2023年度版」9位、第168回直木賞受賞作品 単行本がかなりの鈍器本だったので文庫化されて上・下になってくれてよかった。日露戦争前夜から昭和初期、満州が時代舞台となる。この時期の時代背景は、不穏な時期でかなり興味深い。日本人、支那人、朝鮮人、ロシア人がどういう風に時代と向かい合ったのか。重厚に迫ってくる。すぐ、下巻にいく。2025/07/25