内容説明
たとえ癒しがたい哀しみを抱えていても、傷がそこにあることを認め、受け入れ、傷の周りをそっとなぞること。過去の傷から逃れられないとしても、好奇の目からは隠し、それでも恥じずに、傷とともにその後を生きつづけること――。バリ島の寺院で、ブエノスアイレスの郊外で、冬の金沢で。旅のなかで思索をめぐらせた、トラウマ研究の第一人者による深く沁みとおるエッセイ。解説 天童荒太
目次
I 内なる海、内なる空/なにもできなくても/○(エン)=縁なるもの/モレノの教会/水の中/内なる海/泡盛の瓶/だれかが自分のために祈ってくれるということ/予言・約束・夢/II クロスする感性──米国滞在記+α 二〇〇七─二〇〇八/開くこと、閉じること/競争と幸せ/ブルーオーシャンと寒村の海/冬の受難と楽しみ/宿命論と因果論/ホスピタリティと感情労働/右も左もわからない人たち/弱さを抱えたままの強さ/女らしさと男らしさ/動物と人間/見えるものと見えないもの/捨てるものと残すもの/ソウル・ファミリー、魂の家族/人生の軌跡/III 記憶の淵から/父と蛇/母が人質になったこと/母を見送る/溺れそうな気持ち/本当の非日常の話/張りつく薄い寂しさ/IV 傷のある風景/傷を愛せるか/あとがき/文庫版あとがき/解説 切実な告白と祈り 天童荒太/初出一覧/エピグラフ・出典
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
シナモン
117
だれかが自分のために祈ってくれるということ」ー祈り、までいかなくて自分のために誰かが何かをしてくれるということは、それが些細なことであっても、大きな救いになることがある。多くの「誰か」に支えられての私。私もまた、ときに他者を支える「誰か」でありたいと思う。柔らかな文章が印象的。思っていた内容とは違ったけど、とても良かった。2025/06/04
たま
87
著者は精神科の医師で文化精神医学・医療人類学の研究者で前半は知的で行動的な女性の活動の記録として面白く読んだ。最後の「傷を愛せるか」はベトナム戦没者記念碑について書かれたもの。米国にとってのベトナム戦争は、日本にとって中国・太平洋戦争と同じ触れ(られ)たくない傷だが、その傷を愛せるか、それを直視しそれと共に生きる勇気があるかと言う問いは心に深く響くものがあった。「戦争の当事者の世代ではないから反省しない」―のではなく、歴史の暗部も含めて直視し引き受ける知性と包容力がすべての人に必要だろう。2026/01/05
けんとまん1007
80
語られていることは、とても大きく深いものが多い。それでいて、それを感じさせない文章が、自分自身に寄り添ってくれるように感じる。日々の暮らしの中で、一つ一つのことを、振り返りながら次の一歩につなげるように過ごしていこうと思っているが、その背中をそっと押していただけるようだ。日々、淡々と過ごすこと。あまり無理をせず、自分の周囲にあるものの隙間を、そっと埋めるようにしていこう。2025/08/01
たかこ
79
精神科医でトラウマの研究でも有名な宮地先生のエッセイ。「傷を抱えながら生きるということ」について論文では出てこないところや「誰もが抱えている痛み」について、気づきが詰まっている。「ポスト・トラウマティック・グロース(外傷後成長)」、人は傷によって弱められるだけではなく、それによって学び成長することもある。「レジリエンス(傷への抵抗力・回復力)」は、人がただ傷を受けるだけの存在ではなく、打ち勝つ力をもつ能動的な存在である。トラウマ研究は、戦っても傷つかない人をふやす学問ではない。傷つくことについて考える…。2022/12/21
夜長月🌙新潮部
60
著者は社会学の教授であり、トラウマ等を専門とする精神科医でもあります。このエッセイのタイトルはトラウマは忘れることで克服できるのではないことを示しています。さて、彼女のように2つまたはそれ以上の分野の学際を研究する人たちは情報の裾野を広げざるを得ず、そこから新しい思考を生み出しているように思えます。印象に残ったエピソードが一つ。金沢の21世紀美術館に有名なプールの作品があります。彼女はそのプールの底に座り込んでいつまでも水面を眺め続けていると他の人もならい始めたそうです。2025/11/12
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