内容説明
同時に、しかも別々に誘拐された妻と娘の悲鳴がはるかに聞こえる。
自らが小説の登場人物であることを意識しつつ、主人公は必死に捜索するが……。
あらゆる表現上の実験が繰り広げられる前人未踏の長篇に、「「虚人たち」について」他エッセイ2篇と新規解説を収録。
著者が追究する超虚構文学の幕開けとなった記念碑的作品。
泉鏡花文学賞受賞。
〈解説 佐々木 敦〉
【目 次】
虚人たち
エッセイ
「虚人たち」について
知の産業 ある編集者
解説 佐々木 敦
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
阿部義彦
16
中公文庫筒井康隆がドタバタSF作家から純文学寄りへの志向を強めかつ実験的手法をラテンアメリカの文学を咀嚼した後に援用した最初の作品。旧版も持ってるが今回、著者の「海」編集長塙嘉彦さんに関する文章が読みたくて買って幾度目かの再読。私の筒井康隆ベスト作品です。短編集では同時期の「エロチック街道」がベストでいかに塙嘉彦さんが筒井さんに与えた影響が私の好みと合っているかが伺えます。この線で後の「夢乃木坂~」まで突っ走るブレイクスルーとなった作品。時間、空間、因果関係、定型レトリックからの脱出、若書き故の迫力2025/05/24
ロックスターKJ
5
評価:★★★★☆ 4点 筒井さんの実験的作品。自分が小説の中の人物であることを理解している主人公や、時間の流れや空間の移動が普通の小説と違っていること、読みづらい文体など、慣れるのに時間がかかったが、面白く読めた。とりあえず、これで1冊書けてしまうというのはすごいな、と思う。2025/07/10
vivahorn
3
突然、中公文庫から本書が新版として出版された。本当に何の前触れもなく出た。そろそろXデーが近いのだろうか?現在、高級施設に入所しているが、筆の方は依然として達者であり、各社月刊文藝誌に寄稿している。この作品で様々な実験をしているとのことだが、今となってはそれ程目新しいものではなくなった。結構、新人SF作家に真似されている。虚人の「虚」は虚数(実数に対する)ではないかと私は結論付けた。そうすると、辻褄が合う。実際、虚数は辻褄合わせのために作り出された側面がある。出演者全員、虚数の世界の人たち。2025/06/19
selva
2
これまで何度読んでも100ページ前後で挫折していたが新版が出るので買い直した。するとすべて読み切れた。ラストは感動してしまう。これはほんとならノンストップで読まないといけないのかもしれないがさすがにそれは無理だ。にしてもすごいものを読んだ。新版に追加されたエッセイは「着想の技術」からの再録なので読んでいたはずだが、やはり本編を読んでからだと違う。2025/05/29