ちくま新書<br> 中華とは何か ――遊牧民からみた古代中国史

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ちくま新書
中華とは何か ――遊牧民からみた古代中国史

  • 著者名:松下憲一【著者】
  • 価格 ¥990(本体¥900)
  • 筑摩書房(2025/05発売)
  • ポイント 9pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784480076830

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内容説明

中華思想は文明の優劣で人々を区別する発想である。文明のある世界を中華とし、その周辺には野蛮な夷狄がいる。そして夷狄は中華に何も残さなかったものだと長らく考えられてきた。しかし注意深く歴史をみていくと、夷狄であるはずの遊牧民はむしろ中華文明の形成に積極的に関わり、新たに持ち込み、主体的に選別し、継承してきたことがわかる。中華文明拡大の要因は、あらゆるものを内部に取り込んで膨張していく性質にある。逆に言えば、気づけば夷狄も中華になっているのだ。本書は、中国史を遊牧民の視点から捉えなおすことにより、中華の本質に迫る一冊である。

目次

はじめに/第一章 中国史にとっての遊牧民/王朝交替/中華文明の存続/中国の地理/生活スタイル/女性の地位の高さ/遊牧の起源/馬の家畜化/車の発明/インド・ヨーロッパ語族の広がり/騎乗のはじまり/中国と牧畜/モンゴル高原の遊牧/第二章 中華文明の成立と夷狄/1 農牧境界地帯の形成 気候変動と社会の階層化/初期国家の成立/原中国人の祖形/青銅器の伝播/2 王朝の誕生と夷狄 城壁集落と首長/城壁集落から都市へ/殷墟/甲骨文字/二輪スポーク戦車と馬/天体観測と暦/方国/3 周と夷狄 殷周革命/牧野の戦い/天命思想/封建/殷を継承/周と夷狄/中華思想の起源/第三章 中華古典世界と夷狄/1 春秋諸侯と夷狄 歴史書の誕生/春秋時代の夷狄/晋の文公/の国 中山/2 戦国七雄と夷狄 文明世界とそれ以外/燕と東胡/趙の武霊王/3 秦と匈奴 開国伝説と聖人の政治/匈奴の登場/七雄の戦力比較/秦の中華統一/匈奴討伐と万里の長城/始皇帝陵/中国の成立/夷狄に対する四つの対処法/第四章 中華と夷狄の対峙/1 匈奴国家の成立 君主の呼び名/天子と皇帝/冒頓のクーデター/モンゴリア制覇/匈奴の国家体制/スキタイとの類似性/2 前漢と匈奴 白登山の戦い/和親/中行説/前漢の帳簿/国書の往来/匈奴の西域支配/漢と馬/武帝の即位/冊封のはじまり/武帝の挑発/汗血馬を求めて/烏孫/解憂/匈奴の衰退/単于乱立/破格の好待遇/王昭君の降嫁/3 新たな匈奴像 土城/匈奴の農業/第五章 夷狄を内包する中華世界/1 匈奴の臣従 匈奴は別格/王莽の華夷混一/四条の規定/夷狄を従える/王莽の容貌/匈奴の中興/匈奴の大型方形墓/2 後漢と南匈奴 莫大な下賜品/夷を以て夷を制す/逢侯の乱/3 北匈奴の動静 光武帝が和睦を拒否/碑文「燕然山銘」/三絶三通/北匈奴とフン/匈奴の発音はフン/烏桓/鮮卑/南単于権の崩壊/仏教伝来/第六章 夷狄による中華の再生/1 五胡十六国 八王の乱/五胡十六国のはじまり/劉淵の自立/皇帝即位/宗室軍事封建制/劉聡の即位/五徳終始説/前趙は胡漢二重体制/後趙の建国/石勒の統治/石虎の後継者問題/前秦の建国/苻堅の国家安定策/ 水の戦い/前秦の先進性/2 拓跋国家 併合と離散の国家成立/昭成帝の改革/北魏の道武帝/八国と代人/内朝/西郊祭天/季節移動/金人鋳造/子貴母死/真人代歌/太武帝の華北統一/孝文帝の漢化政策/3 柔然と南朝 柔然という称号の意味/仏教の隆盛/第七章 新たな中華の誕生/1 東魏・北斉と西魏・北周 新たな認識の萌芽/『周礼』と後宮/九龍の母/レビレート/恩倖/北周/天元皇帝/2 隋と突厥 侵攻と和平/隋の中華統一/兵士のゆくえ/二つの首都/貶められた皇帝/3 唐の新たな中華 多民族国家・唐/「古代書簡」/中華のソグド人/ソグド人軍団/ソグドの姓/玄武門の変/東突厥の滅亡/和蕃公主/則天武后/安史の乱/反乱の経緯/安史の乱とは何だったのか/唐の文化/騎馬女子/唐の長安/遊牧民視点の「中華」史/あとがき/参考文献

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

よっち

27
中華文明の形成に積極的に関わり、新たに持ち込み、主体的に選別し、継承してきた遊牧民たち。中国史を遊牧民の視点から捉えなおすことにより、中華の本質に迫る1冊。中国の王朝交代と文明の中で、遊牧民はどのような役割を果たしてきたのか。中国王朝の成立と夷狄との関係に始まり、匈奴国家成立による対立関係、匈奴の臣従と五胡十六国時代の夷狄による中華の再生、隋唐時代の中華再統一に至るまでの過程を扱っていて、同化していった遊牧民が持ち込んだものもまた少なからず中華に影響を与える形で成立していったことが伺えて興味深かったです。2025/06/06

kk

19
図書館本。唐朝までの歴史を辿りながら、周辺民族との様々なインタラクションの中で中華の形が変容を遂げてきたことを示そうとしているものの如し。その意気に感心。他方で、紙幅の大半は北方騎馬民族の消長や文化的・社会的特徴、それら民族興隆の背景などに充てられている印象。先史文明の淵源や華夷思想の濫觴などは別として、周辺から中華への影響については、椅子だのテーブルだのに触れているのみ。南方諸民族と南朝との関係などはスルー。問題意識とプロダクトの間に些かのギャップなしとしない感。著者よりも寧ろ編集者に更なる工夫を期待。2025/07/30

MUNEKAZ

16
副題がすべて。「中華とは何か」と振りかぶるから概念的な話題が来るかと思いきや、実証史学の具体的な描写が続く。北方の異民族が「漢化」したと一口に言うが、その実は中原を支配した征服者が、能動的に中華の文明を取捨選択したもの。とくに諸部族が並立する体制を変化させるために、支配層を「漢化」させることで、新たな階層を作り出すという部分は面白かった。「中華」に限らず文化とは固有のものではなく、変幻自在で可塑的に作られてきたものだよということ。良い概説書だと思うけど、主題と副題は逆のほうがよかったかな。2025/07/04

月をみるもの

16
むかーし司馬遼太郎が Universal な文明と local な文化の違いについて述べていたのをよく覚えている。文明の代表たる中華も一朝一夕で成立したわけではなく、かつては夷狄とさげすんでいた周辺(とくに北方遊牧民)との長い長い相互作用のすえに生み出されたものなのだ。春秋戦国は周と秦の間の、五胡十六国時代は漢と隋・唐に挟まれたなんだかよくわからない戦乱の時代、、、としか認識できてなかったのだが、その混乱こそが中華文明の揺籃だったのだ。2025/07/01

電羊齋

16
著者はまず「中華思想」には排他的側面だけでなく、徳を持つ者が「中華」であり、周辺の「夷狄」も「中華」になれるという融合的側面もあることを指摘する。その上で時に「中華」を支配した遊牧民の視点から「中華」について語る。本書からは「中国」・「中華」・「中華思想」・「漢人」・「漢族」は、遊牧民など周りの集団・文化を取り込んで絶えず変化してきたこと、そして遊牧民たちも決して単純かつ一方的に「漢化」したのではないことがわかる。これまでの研究成果を堅実に踏まえた概説であり、要所要所をしっかり押さえていると思う。2025/05/17

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