中公新書<br> 政治哲学講義 悪さ加減をどう選ぶか

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中公新書
政治哲学講義 悪さ加減をどう選ぶか

  • 著者名:松元雅和【著】
  • 価格 ¥990(本体¥900)
  • 中央公論新社(2025/04発売)
  • ポイント 9pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784121028501

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内容説明

正しさとは何かを探究してきた政治哲学。向き合う現実の世界は進むも退くも地獄、「よりマシな悪」を選んでなんぼの側面をもつ。
命の重さに違いはあるのか。汚い手段は許されるか。大義のために家族や友情を犠牲にできるか。
本書はサンデルの正義論やトロッコ問題のような思考実験に加え、小説や戯曲の名場面を道しるべに、「正しさ」ではなく「悪さ」というネガから政治哲学へいざなう。混迷の時代に灯火をともす一書。


【目次】
はじめに
正義論に残された問い  作品で読み解く

第1章 「悪さ加減の選択」――ビリー・バッドの運命
1 選択のジレンマ性
ジレンマとは何か  損失の不可避性  損失の不可逆性
2 政治のジレンマ性
政治とは何か  公共の利益  利害の対立
3 マシな悪の倫理
マシな悪とは何か  三つの特徴  行為と結果の組み合わせ
4 まとめ――政治の悲劇性

第2章 国家と個人――アンティゴネーとクレオーンの対立
1 偏向的観点と不偏的観点
偏向的観点  不偏的観点
2 不偏的観点と政治
法の下の平等  具体例① 政治腐敗  具体例② 国連活動
3 不偏的観点と個人
インテグリティと政治  国家と個人・再考
4 まとめ――クレオーンの苦悩と悲嘆

第3章 多数と少数――邸宅の火事でフェヌロンを救う理由
1 数の問題
規範理論① 功利主義  特徴① 総和主義  特徴② 帰結主義
2 総和主義の是非
人格の別個性  権利論  権利は絶対的か
3 帰結主義の是非
規範理論② 義務論  マシな悪の倫理・再考  義務論的制約
4 まとめ――ゴドウィンの変化

第4章 無危害と善行――ハイジャック機を違法に撃墜する
1 トロリーの思考実験
具体例ドイツ航空安全法  「問題」前史
2 消極的義務と積極的義務
義務の対照性  優先テーゼ
3 トロリー問題
「問題」の発見  手段原理  航空安全法判決
4 まとめ――制約をあえて乗り越える

第5章 目的と手段――サルトルと「汚れた手」の問題
1 汚れた手という問題
理解①マキァヴェリの場合  理解② ウォルツァーの場合
2 いつ手は汚れるか
印としての罪悪感  罪の内実
3 いつ手を汚すか
指針①絶対主義  指針② 規則功利主義  指針③ 閾値義務論  制度化の問題
4 まとめ――サルトルと現実政治

第6章 自国と世界――ジェリビー夫人の望遠鏡的博愛
1 一般義務と特別義務
不偏的観点・再考  偏向的観点・再考  偏向テーゼ
2 特別義務の理由
理由①道具的議論  理由② 制度的議論  理由③ 関係的議論
3 特別義務の限界
不偏テーゼ  消極的義務・再考  積極的義務・再考
4 まとめ――慈悲は家からはじまり……

第7章 戦争と犠牲――ローン・サバイバーの葛藤
1 民間人と戦闘員
民間人の保護  戦闘員の保護
2 民間人への付随的損害
二重結果説  民間人か自国民か  具体例 ガザ紛争
3 民間人への意図的加害
個人が陥る緊急事態  国家が陥る緊急事態  偏向的観点・再再考
4 まとめ――戦闘員の信念と部族の決意

第8章 選択と責任――カミュが描く「正義の人びと」
1 選択を引き受ける
規範理論③ 徳倫理学  インテグリティと政治・再考  心情倫理と責任倫理
2 責任を引き受ける
指針①メルロ=ポンティの場合  指針② カミュの場合
3 「悪さ加減の選択」と私たち
民主的な汚れた手  責任を政治的に引き受ける  具体例 アルジェリア問題
4 まとめ――サルトル=カミュ論争

終 章 政治哲学の行方
AIと「悪さ加減の選択」  AI時代の政治哲学

あとがき
読書・作品案内
引用・参考文献

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。

trazom

107
正義論に残された問いを、文芸作品を題材にして考察するユニークな一冊。トロッコ問題のような様々な思考実験が提示され、政治的な意思決定を正当化する論理が考察される。近親者・自国民・多数を優先できるかとか、善い目的のためには加害が許されるかなどの問題が、「よりマシな悪」や「いつ手を汚すか」という切り口で議論される。そこにあるのは、倫理や道徳という理念ではなく、政治的な選択というのは「悪さ加減の選択」だという現実である。政治とは、正に、ウェーバーの言う「良心の倫理ではなく責任の倫理」ということなのかもしれない。2025/06/22

ぴー

73
正しさではなくマシな悪というインパクトに興味を持ち購読。悪さ加減をどう選ぶのかをベースに、文学などの個々の事例を考えていくのが本書の特徴。悪さ加減を判断する際に、様々な哲学者が登場する。哲学に無知な自分は、理解するのがやや難解であった。ただ、現実にありそうな葛藤を自分にはなかった視点・理論を知ることができた。ベンサムとカントの考えが個人的に面白かった。本書の終盤の「汚れた手」では、市民は知らなかったでは済まされないと書かれた箇所に筆者のメッセージを感じる。理解不足だったので、再チャレンジしたいです。2025/06/24

逆丸カツハ

39
非常に面白かった。どうしても割り切れない選択をしなければならないことがある。無謬の選択を求めるのもまた一つの誤りであり、やましさであり、ここに挙げられているほどではないにせよ、正しい選択が出来ない状況に追い込まれることを想定しないというのはナイーブなのかもしれない。聖人なんかにはなれっこないが、それでも「マシな選択」を求める努力はしなければならないのだと思う。2025/04/30

おせきはん

28
決断が難しいジレンマ状況において「悪さ加減の選択」をどのように行うのか、小説などの例をもとに議論が深められています。状況に応じて矛盾する選択肢を選んだ方がよいと考えることもあり、一貫性があると思っていた「正義」も揺れることに気づきました。多くの人々に影響する政治の決断は難しいですね。2025/07/30

みつ

20
「政治哲学」という言葉に馴染みはなかったが、「より良く、正しい」ことを目指す倫理学に対し複数の悪のあいだでマシなほうを選ぶというのが政治哲学、ということのよう。メルヴィル、ソポクレス、ディケンズ、カミュらの文芸作品も用いながら、いくつかの選択肢を突きつけ議論は展開する。以下は後日メモを参照するための見出しの一部。「トロリー問題」を取り上げた章における「消極的義務と積極的義務」、「優先テーゼ」、「手段原理」。「汚れた手」問題。「偏向テーゼと不偏テーゼ」「優先テーゼ」と二種類の義務の組み合わせから言えること。2025/06/28

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