内容説明
「ただ普通でありたかった」
誰か教えてください。
ぼくはどう生きればよかったのでしょうかーー。
三通の手紙に刻まれた魂の叫びが、現代の精神的堕落をあぶりだす。
中学受験、トー横、起業サークル、悪徳コンサル、闇バイト。
「普通」が壊れた時代に漂う「自己本位」への誘惑。
【あらすじ】
ある青年から届いた手紙には、幼少期から「普通」を願って生活を送ってきたことが書かれていた。普通の家庭、普通の教育、普通の交友関係。多少の挫折はあっても、彼は「普通」の軌道に乗り続けている--はずだった。今、彼はとても困難な状況にいる。どこでそうなったのか。どうしてそうなったのか。両親が不仲だからか、トー横に行ってしまったからか、それとも大学時代の起業サークルが原因か、それとも重くのしかかる奨学金のせいだろうか。三通の手紙があぶり出すのは、あらゆるものが可視化された現代社会にはびこる精神的幼稚さと、その行く末。
ぼくだけが悪いのでしょうか?
見えますか?この暗黒が。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
251
月村 了衛は、新作をコンスタントに読んでいる作家です。 本書は、ドキュメンタリーのような物語、中学受験・トー横・起業サークル・悪徳コンサル・闇バイト転落人生クライムノワールでした。現実的にこういうパターンは多いのかも知れません。 https://www.kodansha.co.jp/book/products/00004101192025/06/15
いつでも母さん
178
『普通』って何だろう。本作もまたその思いを人差し指で突き付けて来た。他人に答えを求めるな!誰に承認してもらいたいんだ!嗚呼、イライラもやもやする第一の手紙と第二の手紙あってのこれだ。ドキドキする第三の手紙だ。ここを読ませるために月村さんは酷だね。何処かでそっち側だったかもしれない時代を越えて今、『普通』を生きてる私を試してる?堕ちていく恐怖、底が無い不安、何処かで違う選択があったはずだが、それは後になって気付くのだ。冷静に振り返る川辺優人が逆に怖い。命を以って償うのも違う気もする。これが普通の底なのかー2025/05/22
hiace9000
177
これぞ社会派・月村筆の真骨頂! ノンフィクションの態で綴った、青年川辺優斗の手記が炙り出すのは、「普通」信仰という名の"社会的呪い"か。一青年が学齢期~青年期に至るまで、社会の随所で見受ける「普通」の実態を深く抉り描いていく。普通であることの真意とは?普通の〈底〉に潜む悪意とは? 読中絶えず抱き、妙に纏わりつく主人公への違和感の正体、それこそが自身の似姿ではないか? 彼の"空疎で実体のない優越感"や"他者への無自覚な冷酷"が、覗き込んだ我々現代人の「普通」の底にねっとり溜まる。そのすぐ傍に黒々とした穴が…2025/06/07
しんたろー
148
ある青年が己の30年ほどの人生を振り返り手紙にしたためた形式で進む社会派サスペンス…「普通」に生きることを強く意識してきた青年が転落してゆく様が哀しい。だいたい私は「普通」を他人に強要する人が嫌い…「普通のルートで行って」とか「普通に考えれば判るでしょ」とか…各々によって変化する曖昧なものに振り回されたくない。今の日本をリアリティ満載で描かれているので、頷きながら読み進めるほどに「明日は我が身」と恐ろしくなった。「普通の人生=幸福な人生」であって欲しいが、そうならない世の中に暗澹たる気持ちになる問題作。2025/06/19
hirokun
147
★4 月村さんは、社会派ミステリー小説が好きで新刊を中心に読んでいる作家さんだが、本作も非常に時代の流れに沿った問題意識で提起された作品だった。私も闇バイトで犯罪に加担する人たちの心情が理解出来なくて、新聞等で報道がなされる度に違和感を感じていた。ある意味「普通」を望んで生きてきた人たちが、偶然が重なる中で、闇バイトにまでたどり着く怖さを理解出来た様な気がする。「普通」の先に行き着く人生の泥沼、「底」を垣間見たようだ。文章自体は分かり易いのだが、淡々とした語り口の為か、物語に深さを感じ難いのは私だけか?2025/05/26




