内容説明
明治後期、部落出身の教員瀬川丑松は父親から身分を隠せと堅く戒められていたにもかかわらず、同じ宿命を持つ解放運動家、猪子蓮太郎の壮烈な死に心を動かされ、ついに父の戒めを破ってしまう。その結果偽善にみちた社会は丑松を追放し、彼はテキサスをさして旅立つ。激しい正義感をもって社会問題に対処し、目ざめたものの内面的相剋を描いて近代日本文学の頂点をなす傑作である。[付・北小路健「『破戒』と差別問題」](解説・平野謙)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ehirano1
208
「何かを得るには何かを捨てなければならない」の1つの形が本書でもあるのではないかと思いました。出自のようにガチャであるものはどうすることもできない。本書のように苦悩しながらも打ち明け新しい道へ向かう。一方で、闘うのもまた一つ。そんな選択肢を掲示しているようでもありました。2024/12/30
kaizen@名古屋de朝活読書会
197
中学、高校で勧められた読む。今一歩ピンと来てなかった。 何十年立ってから、再度読むと、当時の作家の中では、際立っているところを感じる。 文学が、社会とは異なる視点を提供しようとしていることを再認識。2014/05/27
ゴンゾウ@新潮部
144
人権問題の講義で必ず取り上げられる作品。部落出身者であることを隠し苦悩しながら教壇に立つ青年瀬川丑松と同じ境遇ながら身分を明かし活動する思想家猪子先生。中盤以降の猪子に告白できない丑松の心の葛藤と猪子の死に直面し告白ことを決心するまでは瞼が熱くなった。ただ残念なのは生徒への告白である。身分を隠していたことの懺悔に終わっている。本当は猪子のように身分を隠さないで生きていく決意でないか。もっと壮絶な作品をイメージしていたので、少し肩透かしだった。でもあの時代ではここまでしか踏み込めなかったのかとも思う。2015/05/05
優希
140
社会問題に鋭く切り込んだ名作だと思います。今でこそ意識しないものの、かつては部落差別というものが激しかったことを実感させられました。身分を隠さないと生活にも支障をきたしてしまうほどとはただ驚きです。だから出生を隠す必要があったのですね。しかし、同じ宿命の解放運動家との出会いにより父の戒めを破った結果、偽善社会の追放に遭うというのが何とも皮肉としか言えません。部落差別や身分差別という問題に真正面から向き合った作品として有意義だと思います。2016/08/30
ちくわ
136
作者名は知っているが著作を読んだ事は無い。普通なら『破壊』だろうが、何故『破戒』?等と思いながら読み始める。とても重いテーマ…そしてこのタイトルに納得しまくる。細かな感想はさて置き、近世と比較すれば現代は随分差別は減ったのかなぁ?自分の意志とは無関係な部分での差別が無くなるのは、本当に良い事だと思う…が、一方で自由意志を奪われるような是正にはやや違和感を憶えてしまう。最たる例がタトゥー!入れるのは自由だが、それを怖い!とか嫌だ!と感じる自由は奪われたくないし、強制受容させられたくはないんだよなぁ。変かな?2025/04/04