内容説明
偵察機を撃墜され、毛沢東治世下の敵国に落下した、台湾空軍スパイ・鹿康平。彼は飢餓の大陸から母国に奇跡の帰還を果たす。そう、これはわたしの血族の話だ――。中国、台北、東京。鹿康平と彼をモデルに小説を執筆するわたし=柏山康平。ふたりの男の運命が絡み合う。凜々しく美しい女との恋。命を懸けた冒険。『流』はこの長編に結実した。東山彰良の黄金期を告げる圧倒的エンターテインメント。(解説・大矢博子)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
sin
51
記憶の中に留めた人生を編集出来ないのは事実だが、それさえ書き変わっているのかもしれない⋯虚構と現実は受け取り方に依ってはその立場を入れ替える。いや、直截に云ってしまえば虚も実も裏付けが無ければ同じ事だ。記憶と云う不確かな情報を元に事実の確定は不可能だ。作家は言葉を創るものだが感情まで創作しようとする。求め合うその言い訳に愛を創るのか?それは男女の執着ではないのだろうか?不倫だろうか?戦争なのか!振り下ろすバットの先はどちらを打ち壊そうとしたものか?希望と云う幻想を感じさせる物語らしい終わり方で幕を閉じる。2025/05/01
しい太
3
作中人物が物語の書き手として悲愴的な作中事象を希望的に書き換えていく、というメタフィクショナルな構成に滅法弱いので(小説の醍醐味のひとつ)、その手法を徹底的に突き詰めたような本作が嫌いなわけはない。過去と現在、嘘と真実、愛と自由の物語。戦時の極限状況下、叔父さんは本当に怪物を撃ったのか? 怪物は叔父さんに大量殺人を強いたのか? 主人公の作家は自身の恋愛や見聞を経て怪物の真実を書き換えていく。前書き通り夢オチ……というか虚実曖昧ではあるが、それでもやはり物語だ。2025/10/21
テイク
1
最初から現実と虚構が入り混じると宣言して始まる。作者はかつて結末を決めず書き始めやがて登場人物が作者の筆から独立し行動すると述べていた。今作の鹿康平が選んだ結末もそういう持論に共通するものだろう。鹿康平は農民を殺さず蘇大方一味を殺すという新たな道、柏山はリサと再会するも前とは同じ選択肢をとらない新たな道が開ける。構成もロジカルな訳ではなく現実(?)、作中作「怪物」、柏山の夢といつのまにか切り替わる構成が夢らしいと言えばそう。そう言った幻想小説的要素以外に大躍進政策や黒蝙蝠中隊だけでも興味深い要素だが…2025/11/22
コウ
1
著者の自己満足と自己偏愛、自身の知識を見せつけたいだけの駄作。以前、単館で観たB級とも言えないような映画を思い出しました。本を購入したお金の無駄、時間の無駄、紙の無駄でしたが、時にこうした中学生でも書けそうなプロットの愚作には出合うもの。そういう意味ではラッキーだったのかもしれません。2025/05/28
あいあい
1
柏山康平と椎葉リサ、鹿康平とシャオ、蘇大方、王康平、王誠毅。自由と愛、戦争、生きることと飢えること、罪を語った物語。現実(現在)と回想、作中作の三つのパートを行き来しつつ、やがて三者が融解し、互いに影響しはじめる。圧倒的な筆力。鋭く深いアフォリズム。ぐいぐい引っぱって行かれる。傑作だと思う。しかし自分がどこまでちゃんと(深く)読めたかは微妙。でも読んで良かった!2025/05/15




