内容説明
十七歳と十六歳の夏の夕暮れ、きみは川べりに腰を下ろし、“街”について語り出す――それが物語の始まりだった。高い壁と望楼に囲まれた遥か遠くの謎めいた街。そこに“本当のきみ”がいるという。〈古い夢〉が並ぶ図書館、石造りの三つの橋、針のない時計台、金雀児(えにしだ)の葉、角笛と金色の獣たち。だが、その街では人々は影を持たない……村上春樹が封印してきた「物語」の扉が、いま開かれる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ふう
74
静かで、モノトーンの映像を思わせるような物語でした。明るい色は薪ストーブの炎だけ。街を囲む壁や人から離れた影の存在が意味するものが何か、(上)ではまだよくわかりませんが、惹き込まれて、物語の中で主人公の隣をいっしょに歩いているような気持ちで読んでいました。村上作品の中で、わたしはよく迷子になるのですが、今のところは大丈夫。2025/07/27
nobi
69
1頁目から「沈黙の奥から」見つけてきたような美しい言葉の連なりが心に沁みる。彼女との逢瀬も手紙のやりとりもファンタジック。直前に読んだガルシア・マルケスが描く殺傷口論不満諦め満載のリアルな日常とのなんという違い。とは言え“影”は肉体なのか、それを失った者の夢なのか非現実なのか、不確かな壁の中の街をあまりに長く彷徨い過ぎでは、という落ち着かない気分もあった。漸くそこを抜けて現実の世界に戻ったような展開にほっとしたのも束の間、不穏な影が見え隠れする。その不穏さ含めて、半ば夢のような世界が続くものと思っていた。2025/05/30
Vakira
62
細胞は膜(壁)があることで生命に必要な物質が逃げ出すことを防ぎ、それによって魂を保有することが出来る。外部と隔たる膜がなければ僕らは僕らという形を保てない。そして、生命意思を持つことが出来なかったのだ。さて、春さんの長編最新作が文庫となりました。大好きなコボさんの芥川賞受賞作の題名は「壁」でした。「壁がいかに人間を絶望させるかというより、壁がいかに人間の精神のよき運動となり、人間を健康な笑いに誘うかということを示すのが目的でした」と、コボさん談。では、春さんは?如何に~?と思い、読順変更して読む事に。2025/05/07
みねね
37
ついに読み終えてしまった。本作が出版されたのが2023年。森見登美彦の『熱帯』のときと同じ直感があった。「まだお前にはこれを正しく読み切る力量はない」/まずは春樹の長編を着実にクリアし、短編のピースも拾い集め、旅行記にも手を出した。さらには春樹に限らず国内外の小説をとにかくたくさん読んだ。と、いうところに文庫化のお知らせ。機は熟した。/転勤により残念ながらもう自由に読書できる生活環境ではなくなってきたが、これからさらに読書量は減るだろう。今しかない、と思って村上春樹が40年寝かせた物語に飛び込んだ。(続)2025/06/22
eipero25
33
ファンタジーとメタファー。今までどおりの村上春樹でした。何も変わってなかった。だからこそファンの期待に応えられる作品なのね。影と切り離された人、リンゴの木の薪ストーブ、単角獣、ダッフルコート、森、川、壁、パソコンのない図書館。喪失感。すべてがイメージ踏襲。まだ半分だけど春樹のまんま。2025/07/27
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