内容説明
世界が一変してしまったあの春、私たちは見てはいけないものを覗きこんでしまった――。持てる者と持たざる者をめぐる残酷なほんとう。死を前にして振り返る誰にも言えない秘密。匿名の悪意が引き起こした取りかえしのつかない悲劇。正当化されてゆく暴力的な衝動。心の奥底にしまい込んだある罪の記憶。ふとしたできごとが、日常を悪夢のように変貌させていく。不穏にして甘美な六つの物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
阿部義彦
33
新潮文庫、ほやほやの新刊です。久々の文芸ものかも知んない。これは、作家さんも好きだし、表紙のデザインが秀逸(名久井直子)そして、最初の頁に大島弓子の「バナナブレッドのプディング」からの有名な台詞が!『すべて真夜中の恋人たち』は大好きな小説です。『黄色い家』は未だ読んでないよなー、などと独りごちる。6つの短編です。「あなたの鼻が~」とラスト「娘について」が印象的。前者はルッキズム、後者は同族嫌悪についての、えぐい程のこわい話でした。薄い本ですが、かなりの猛毒です、心して読んで下さい。2025/04/03
Shoji
26
人間って退廃的に出来ているのであろうか、物事を惰性的に考える生き物なのであろうか。感染症が蔓延し行動が制限されている様が書かれていたが、それは、抑圧された環境で喘ぎながら生きる我々の姿のような気がした。重苦しい物語だった。2025/04/18
kana
26
春は変態が増えるというけれど、これはコロナの閉そく感の中で迎えた、個々が孤独な春、自らの内面から湧き上がってくるこわいもの、ということなのか。繋がっていないようでウイルスは広がり、SNSでもこわいものばかりが繋がり蔓延る世界、ということなのか。いずれにせよ身に覚えがある感覚。今とも地続きの感覚。ただもう文章の隅々まで、言葉の端々まで川上未映子節がさく裂していて「こわい」より、「幸せ」が勝つ読み心地。トヨとよしえの愚かさは特に屈折していて、それを掬い取る文体に魅せられるし、一周回って人間らしく愛おしい。2025/03/31
イシカミハサミ
17
蔓延する感染病。 無くなってしまった日常。 続いていく日常。 それまでの当たり前がなくなったことで、 それまで気付かなかった孤独が浮き彫りになったところも あったのかもしれない。 そんなことを考えさせられるような短編集でした。2025/04/26
カスロック
14
川上未映子二冊目。最初に読んだ黄色い家が最新作でその一個前のコロナ禍で書かれた短編集。黄色い家はノーマークも骨太の少女犯罪モンだったのでこれも期待。どういうタイミングで書かれたのか分からないけどコロナというよりこのバカ騒ぎに対する怒りが通底している。真っただ中に書かれたならなかなかのモンだと思う。整形の話(ボロクソ言われるくだり)と最後の作家と女優志望の二人の話がかなり刺さって良かった。全部オチらしいオチが無いのもコロナのどうにもなんなさの表現か?だけどきっちり描いて欲しかった。次も期待!★★★★☆2025/04/23