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内容説明
米文学史に名を刻む天才作家にして「推理小説の始祖」ポーは、なぜある時から突然、推理小説を書くのをやめたのか? 世界最高峰のミステリ賞〈エドガー賞〉(評論・評伝部門)で日本人初の最終候補、『謎ときサリンジャー』で小林秀雄賞受賞の稀代の〈文学探偵〉による世紀の「発見」とは。作家解釈をも揺るがす震撼の論考。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
138
ポーの「犯人はお前だ」は探偵=犯人物の鼻祖とされてきたが、実は裏返しのトリックが隠されていたとする。この表向きの理解とは逆転する鏡像こそポーが本当に求めていたもので、「モルグ街」や「盗まれた手紙」など他の作品にも同様な読者への知的ゲームとしての二重トリックが潜むと考察していく。ポーの小説が極めて分析的なのは確かだが、単純なドラマ以上のものがあるとしても著者の提示する新しい真相は容認し難い。あまりに偶然と都合よさが前提のトリックで、逆に小説的価値を落としてしまうのだ。ポーは文学でなくミステリとして読みたい。2025/03/22
藤月はな(灯れ松明の火)
48
ネタバレは多々あるものの、再読熱&知的好奇心を掻き立てられるエドガー・アラン・ポー作品への読書手引。一応、合理的な解答が出ていた「犯人は誰だ」をポー作品に共通している事象と作品にも描かれている仕掛けを基にひっくり返していく様は新しい視点からの知的興奮で背筋がゾクゾクする。そして共通事項を足掛かりに矛盾が見受けられた『のこぎり山奇談』の整合性、また『アッシャー家の崩壊』、『モルグ街の殺人』、『ウィリアム・ウィルソン』、『盗まれた手紙』、『黒猫』をも紐解いていく。2025/06/08
まこみや
38
『謎ときサリンジャー』の時その解釈に舌を巻いた。今回は中学時代から敬愛するポーである。今は永年抱き続けた謎が氷解した喜びに浸っている。大前提は、ポーにとってアナリシスとはアナロジー(類推、比喩、組み合わせ)であるということだ。人間知性の根幹は「アナロジーを編み出し活用する」能力にあり、確かにそれは生成AIにはできない能力である。アナロジーの基軸は「鏡像」と「オリジナルとコピー」である。この二つの理論を駆使してポーの作品を捌く手つきは華麗な手品を見るかのように鮮やかで、腑に落ちる。実に刺激的な体験だった。2025/03/15
ぐうぐう
28
「こんなことを言えば途方もない妄想家だと思われるでしょうが、どうやら私はエドガー・アラン・ポーの未解決殺人事件を発見し、その謎を解いてしまった気がするのです」冒頭のこの一文を読んで、そこで本を閉じてしまえる人などいるだろうか。宣言通り、著者はポーの短編「犯人はお前だ」における見えざる未解決の殺人事件を発見し、謎を解いてみせる。さらに、そこから「犯人はお前だ」の真の犯人を突き止め、それがポーが仕掛けた読者への挑戦だと明かすのだ。(つづく)2025/03/19
Shun
27
「謎ときサリンジャー」の著者新刊。サリンジャーは禅思想が絡み哲学的な色が濃かったものだが、こちらは誰もが知るミステリ作家を挙げているだけあってテキストを重視した論理展開で取っつきやすい印象でした。そして本作で最初に提示される未解決殺人事件とは、「犯人はお前だ」という作品。一読したことがあり、最後のトリックにいささか奇天烈な印象を受けたたものの事件に一応の解決を見た記憶があります。しかし著者と共にテキストを振り返ってみれば驚くべき謎を残していることに気付く。そして改めてポーの偉大さを認識した。滅法面白い。2025/03/26