内容説明
神山藩が舞台の『高瀬庄左衛門御留書』『黛家の兄弟』『霜月記』に連なる最新作。
国を棄てるかもしれぬ。
だが俺が知らぬ顔したら、義妹は死ぬ。
武士の理にあらがった二人の逃避行を描く表題作を含む、
四季薫る神山の原風景と、そこに生きる人々の気品が漂う作品集。
山本周五郎賞作家が織りなす、色とりどりの神山のすがた。
「半夏生」
国の堤を支える父と弟。彼らの背中は清く大きかった。
「江戸紫」
藩主の病が招く騒擾を防ぐ妙案はいかに。
「華の面」
能を通じて思い知る、同い年の藩主の覚悟。
「白い檻」
神山の厳冬。流刑先での斬り合いに漂う哀愁。
「柳しぐれ」
町を駆ける盗人の、一世一代の大仕事。
「雫峠」
神山を出ると決めた、二人の間に芽生えた思い。
~「神山藩シリーズ」とは~
架空の藩「神山藩」を舞台とした砂原浩太朗の時代小説シリーズ。それぞれ主人公も年代も違うので続き物ではないが、統一された世界観で物語が紡がれる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
181
神山藩が舞台の短篇集だが、各作品に繋がりはない。異なる時期と状況にあって藩主から武士、その家族や庶民に至る人びとが懸命に生きる姿を淡々と描いていく。彼らは自分たちの置かれた身分や立場がどうにもならないことを知っているが、決して筋を曲げたり小狡く立ち回ったりしない。誰も悪意はないのに、思いがけぬ理不尽で追い詰められても自らの心に忠実なのだ。そんな不器用さは時に不幸をもたらすが、後悔せず生き抜く人の情が清冽な流水のような余韻をもたらす。特に表題作では、偽りから真実の生へと踏み出す瞬間が何ともいえず美しかった。2025/02/15
hiace9000
154
四季折々の情景描写に、移ろい揺れる人の心情を重ね織り込み描く神山藩舞台の六短編。神山藩が短編の名手である砂原筆をさらに奔らせるのだろうか、作品ごとの味わいは期待通り格別。皆まで描くことなくふわりと委ねる独特の静謐なる余韻とともに鮮烈に残るのが、各編を象徴する刺し色の如きはかなくも美しい色彩。『半夏生』の緑、『華の面』の藤色、『柳しぐれ』の白と赤、『雫峠』の茜と藍。『江戸紫』『白い檻』などは正に色そのもの。身分、家格、上意―そこはかとない諦観のなかでも己を見出し、凛と生きんとした機微と変容を滋味深く味わう。2025/04/29
いつでも母さん
149
いいねぇ。なんたって余韻が好い。神山藩シリーズとは言え、舞台が神山藩と言うだけでそれぞれ独立している六話の短編集。そのどれもが好い。どれもどっぷりと浸って心地良いとしか言えない(相変わらずの)語彙力の無さがもどかしい。今回も砂原さんが好きだと断言しよう。期待を裏切らない砂原さんだった。2025/02/11
みっちゃん
138
神山藩シリーズもはや4作目か。これまでに登場した人物や政変、店や銘酒などの名前に「ん⁉」と記憶を辿るが既に曖昧なものも。そろそろ年表や相関図等あると助かるのだが。が、さらに研ぎ澄まされた文章が浮き彫りにするのはのは制約ばかりの身分制度の中で、懸命にひとらしくあろうとする生き様。見入ってしまう。自分的な一番はあの『黛家の兄弟』の政変で突然藩主に定められた少年が戸惑いと苦しみの末に辿り着いた覚悟と境地を、能に打ち込む姿から描き出す『華の面』が好きだ。2025/04/14
のぶ
113
「神山藩」もの第4弾だけれど本作はシリーズ初の短編集だった。同じ神山藩ものといっても、舞台となる状況、年代等は異なっているようだ。各篇の趣向もそれぞれ異なり、その分楽しめる短篇集となっていた。長篇作品のようなドラマチックさはないものの、それぞれの篇毎に清冽、かつ深い味わいがあって魅了される。それは、各篇、登場人物の間に様々な関わり、繋がりのあることが細やかに描かれているからだと思われる。その辺りが読んでいて楽しい。表題作は敵味方に別れようとそれぞれに想いや苦しみがあったことが最後に明かされ圧巻だった。2025/02/07