内容説明
明治29年(1896年)東京。市谷に妻子と暮らす帝大教授、ラフカディオ・ハーンこと小泉八雲のもとに、松江から上京してきた少女・好乃が現れ、女中として雇ってほしいと申し出る。不愛想ながら利発で怪異にも詳しい好乃のことを、八雲やその家族、下宿人である書生の己之吉らは気に入るが、実は好乃には誰にも明かせない秘密があった。八雲はそれを知った上で好乃を雇い入れるが……。
日本の原風景と怪異をこよなく愛する八雲は、急速に変わりゆく東京の風景や、怪異を迷信扱いする風潮に心を痛めていたが、近代化の進むこの町でも怪しい噂はまだ辛うじて生きていた。森の中の食人鬼、怨霊に夜毎誘われる音楽家、妖怪を使役する易者、幻影の美少年、そして雪女やのっぺらぼう……。街でささやかれる数々の怪談を追う中で、八雲や好乃は、華やかな文明開化の陰を目撃し、失われていくものたちの声を聞くこととなる。
怪談はなぜ生まれ、なぜ語られ続けるのか。好乃の真の目的とは何か。そして、小泉八雲はどうして「怪談」を書かなければならなかったのか――。激しい変動の時代を背景に、名著「怪談」成立の裏側を描く文豪×怪異×ミステリー。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ぽろん
31
小泉八雲って、学校で習ったなあ、懐かしいなあと手にとった。彼の元に女中にして欲しいと訪ねて来た少女。彼の怪談の話をモチーフに不思議な話が展開して、とても愉しかった。2025/02/05
Y.yamabuki
14
帝大講師の小泉八雲は、女中の好乃と書生の巳之吉と共に怪事件を解決していく。架空の人物である二人の活躍、そして二人の関係も、もう一つの読みどころ。コラムとして各話ごと、原話と八雲のアレンジが対比がされているのも興味深い。2025/07/16
コニコ@共楽
14
小泉八雲の『怪談』は大好き。八雲先生が登場し、次々と怪談事件を解決していくミステリータッチの小説。女中として雇われたいわくつきの好乃とのタッグを組んだ先生は、怪談話を集めながらの書きながら、妖怪たちの気持ちに寄り添っていく姿が描かれています。人間にも妖怪にも人情や意地があって、もちろん怖い気持ちもありますが、魅力的な話についどうなるか先を知りたくなります。八雲先生は、それぞれが語った言葉というものを大事にして、昔話をそそられるお話にアレンジしていったと思える小説でした。2025/04/05
taro
9
とりあえず読書本を切らさない程度のつもりで買ったけれど、なんのなんの。小泉八雲の「怪談」が、本当にこうして出来上がったのかもしれないと思うと心が沸き立ちます。明治の近代化で失われつつあった怪異を後世につなぎとめたヘルン先生の物語を読みつつ、怪異に何かを託されたという意味で水木先生のことが頭に浮かんだ。各話にはさまれるコラムも興味深く、とくに「ゆきおんな」については今までの固定観念が覆されて気分爽快。好乃さんの件については、表紙で気づくべきだった。2025/02/07
りんりん
8
八雲の家に怪談と思われる話が持ち込まれる。住み込みの女中の好乃と共にその真偽を探る連作短編集。八雲といえば、耳なし芳一と雪女が有名だが、それ以外のも取り上げられていて、説明もあり、わかりやすい文章とで、楽しく読めたかな。5話が、好みかな。人と人でないものとの恋愛へ永遠のロマンスを感じる。2025/06/26