内容説明
第73回読売文学賞【随筆・紀行】受賞作待望の文庫化!
父の死。倉敷の時間。白木蓮の咲く家。
三世代の記憶を紡ぐ初めての自伝的随筆集
「金平糖が海を渡り、四人きょうだいが赤い金平糖の取り合いっこをする日が来ていなければ、いまの自分は存在していない。もし、祖父が戦地から帰還できなかったら。もし、岡山大空襲の朝、祖母ときょうだいたちがはぐれたままだったら。もし、父の目前に落ちた射撃弾の位置がずれていたら。『もし』の連打が、私という一個の人間の存在を激しく揺さぶってくる」(『母の金平糖』より)
遠い時間の中に分け入り、生まれ育った倉敷という土地の食と風土と家族について向きあった著者の記念碑的作品。
〈目次より〉
父のどんぐり
母の金平糖
風呂とみかん
冬の鉄棒
白木蓮の家
ピンクの「つ」
ばらばらのすし
「悲しくてやりきれない」
眠狂四郎とコロッケ
流れない川
民藝ととんかつ
祖父の水筒
ほか二十四編
「旅館くらしき」創業者による幻の名随筆を同時収録。
※この作品は過去に単行本として配信されていた『父のビスコ』の文庫版となります。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
しまみみ
7
平松さんと聞いて浮かぶのは美味しい食べ物とその一品にまつわる著者の生活の一コマを描いたもの、といった感じだった。今回は少し違って、彼女とその家族に繋がる新旧の思い出に絡めた食べ物や、故郷と家族のルーツに迫るエッセイ集となっている。母方の祖父が戦地から帰還する「音」を祖母が聞きつけて飛び出していく場面は鮮烈で、その後に味わう金平糖の甘さは親子の安堵する心を象徴するかのようだ。そして大往生されたお父さまの最期の食べ物がビスコ。これはその味を欲するというよりそれに付随する思い出も味わっておられたのではないかと。2025/07/15
takakomama
6
故郷の倉敷のこと、祖父母や家族のことを綴った自伝的エッセイ。「旅館くらしき」には錚々たる面々が集い、おもてなしも行き届いています。著者の生まれ育った地元への愛着を感じました。食べ物が故人を思い出させ、年を重ねた今だからこそ、あの頃の父母の気持ちが慮れます。巡り合わせ、人の縁は不思議なもの。観光で行ったことがある、大原美術館や美観地区の風景が目に浮かびます。著者の父と私の父は同年代。私は、父に好物のカステラを食べさせてあげられなかったのが心残り。2025/03/13
maru104
5
同年代の筆者が描くエピソードに共感しまくり。両親の年齢もほぼ同じ。戦中戦後の質素な暮らし。でもその分ささやかなことで至極の幸せを感じることが出来る。ある意味幸せな幼少期を過ごせてきたのかなぁとも思う。活字を追いながら、自らを育んだ大切なものと向き合えた素晴らしい読書時間を実感した。2025/09/03
もけうに
4
平松さんの他エッセイとはかなり趣が違う。食べ物の話題もあるが、故郷・家族・己の来し方を辿るような情緒的な筆致。フットワーク軽く旅をする方なので、ここまで故郷に思い入れがあるとは知らなかった。引用が多いのでやや読み辛い。平松氏の父はかなりしっかりした方だったようで。父方の祖母が今時珍しい程我儘放題&いい加減&周囲・子供に迷惑かけまくりなのを見ているので、色々考えてしまう。60台後半の父と90近い祖母の共依存ぶりは傍で見てもぞわぞわする。2025/08/20
ともち
1
故郷礼賛、家族を崇めているわけではないのに、崇高な感じを受けるのは、一歩引いた目線で描かれていること、深い愛からなのでしょう。岡山、行ってみたくなりました。今後も平松洋子氏の優しい語り口の著書、読みたいです。2025/02/21
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