内容説明
人間は、どのようにしてモラルを持つようになったのだろう? 助け合うよう生まれついているはずなのに、今や普遍的なモラルなど失われたかのようだ。だが、人類が共有するモラルは存在する。モラルの起源が理解できれば、モラルの未来も見えてくる。
生物学的、文化的に社会が進化していく過程でモラルはどのように形成されたのか――哲学の専門知識とさまざまな研究データをもとに解明。現在の私たちのあり方を決定づけた進化の歴史が明らかになる。
狩猟時代から現代に至るまで、人間のモラルの基本は「個人の利益<共同体の利益」である。脆弱なホモサピエンスが生き延びるには、それは最良の手段だったからだ。5万年の歴史を通して、社会的構造の変化とその後の経済発展により、モラルはさまざまな変容を遂げてきたが、基本は今なお変わらない。
人間の善と悪はどのようにつくられてきたか? 歴史の流れを軸に、哲学、経済、生物学的な分析をもとに「モラルの変遷」を説明。
かつてない不平等と分断の時代、他者に限りなく不寛容で、モラルに反するものを厳しく罰し、個人主義が浸透しすぎた時代、どのように新たなモラルをつくるべきか?
著者の結論は人間のモラルの基本に立ち戻ること。国・民族・宗教などを問わずに人類に共通する「個人の利益<共同体の利益」を新たなモラルにすべきだというものである
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
122
カントは人間を「理性を授かった動物」と定義した。その理性で共通の利益を図る集団を形成し、集団を結束させる手段としてモラルや賞罰、不平等に格差などを生んだ。集団が大きく結束が固いほど利益も膨らむため、集団のリーダーは自分たちが善であり他者は悪だとの考えを広めた。このやり方を早めに習得した集団は先んじて発展し、遅れた集団は自分たちこそ正しいと主張して既得権益を奪おうとする。人類の歴史はこうした闘争の連続であり、そこに人種、宗教、言語が加わって道徳的価値観の優越を争うのだ。この果てしない祭りに終わりは来るのか。2025/02/06
クリママ
48
著者はドイツの哲学者。東アフリカで誕生した人類は、気候変動、食料の調達、猛獣からの危険回避などのため、集団生活を始めた。個人にとっては非協力的な態度が最善の選択であるにもかかわらず、集団で暮らすため協力し、それが道徳の基盤となった。先史時代の集団同士の出会いは、ほとんど暴力に発展すると記され、その原因を読めば納得せざるを得ないが、人類とはそういうものなのかと落胆する。集団を維持するための、懲罰、文化およびその違い、奴隷制度等支配と不平等、幸福度など、過去から現代へ多くの引用を用いながら解説される。後半は⇒2025/03/15
ta_chanko
26
西欧文明が世界を制した要因は、カトリック教会が伝統的な家族・親族関係を解体し、さらにプロテスタントの発生により個人主義的な価値観が広まったから。血縁関係にある家族・親族・部族しか信用できない社会から、他人であっても信用して生活や仕事を共有できる社会への移行が、より大きな人間集団での生活を可能にした。他人同士を結び付けるのは「我ら」という意識。風習・宗教・習慣・道徳などを共有する人間の輪が時代とともに大きく拡大し、現代にいたる。一方で、現代においても社会を「我ら」と「奴ら」分断させる言説が飛び交っている。2025/01/17
ヨンデル
17
★モラル/善悪と道徳の人類史/ハンノ・バウアー/長谷川圭/講談社。人類という種が他の生物から分岐して、驚異的な進化を遂げた理由を多角的に解説している。人類がここまで地球上で支配権を広げてきた一番の理由は、大きな脳を持ったことである。大きな脳をもったことにより、生きていくうえで大切なものを発明したが、肉体は他の動物に比べて脆弱になった。それは肉体を進化させるより知性を伸ばしたほうが、環境に素早く適応できたことが主な原因だろう。それが人口を増やす原因となった。2025/10/14
月をみるもの
13
WEIRD (Westernized, Educated, Industrialized, Rich, Democratic ) な人々は、文字通り Weird (異様な、気味の悪い、この世のものでない、変な、奇妙な) であり、ホモサピの中でもごく最近出現した変異集団でしかないのであった。しかし、最初の W は要らん気がする。2025/09/28
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