内容説明
猫のムルは生まれたての子猫の時、稀代の知識人にして奇術師アブラハム氏によって、橋の下から拾いあげられ、大切に育てられた。アブラハム氏の家にいるあいだにムルは、氏が書き物をするそば近くに陣取って、読み書きを習得したのだった。そして、自らの人生を回想する原稿を書き始めたが、羽根ペンで書いては、近くにあった一冊の本、『楽長ヨハネス・クライスラーの伝記』のページをちぎり、吸取紙や下敷きとして原稿にはさんだのだった。いざ、原稿を出版する運びとなった折、印刷所が、はさまれた『クライスラー伝』をうっかりそのまま組み込んで印刷してしまったというのが、本書である。つまり、牡猫ムルが自らの人生を語っている文章のそこここに、音楽家クライスラーの伝記が、はさみ込まれているという二重構造の物語(二重小説)なのである。猫が主人公の動物小説であり、怪奇小説であり、犯罪小説であり恋愛小説でもあるという贅沢なこの物語は、当初は全三巻を予定していたのだが、著者ホフマンの死によって、第二巻で未完のまま終わっている。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おだまん
12
昨年岩波文庫版で非常に難儀したのがうそのように読みやすい。ホフマンの奇才ぶりをしっかり堪能できて満足。こうなると最終巻まで読みたかったなぁ。2024/12/27
なんなん
1
頭がよく自惚れ強く猫らしいそそっかしさもある牡猫ムルが綴る伝記と、ムルが伝記を書くのに使った紙に書かれていた「楽長ヨハネス・クライスラーの伝記」の断片が一冊の本になりました。やりたい放題の構成。仰々しい語り口。好みはわかれるだろうけど私は好きです。牡猫ムルのモデルは作者ホフマンの愛猫ムルで、愛猫ムルが道半ばで斃れたところでムルの伝記が終わり、クライスラーの伝記も解決編を見せずに終わる。いいところで未完の完結といった感じだけど本物の伝記を読んだ感覚で消化不良感はない。2025/01/19