内容説明
人々に妖精の谷と怖れられる地で、荒野を庭として育った少女がいた。母は少女の名を隠し、少女の父、海の息子マナナーンから盗んだ鉢を護って洞穴でひっそりと暮らしていた。だが少女は日ごとに成長し、力強く、そして素早くなった。やがて広い世界への憧れが抑えきれなくなった少女は、母からペレティルという名前を受け取ると、カエル・レオンに玉座を構える王アルトゥルスの戦士団に加わるべく旅立った……。ネビュラ賞受賞作家が、アーサー王伝説群の中のパーシヴァルの物語を独自の視点で語り直した鮮烈な作品。LAタイムズ文学賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
星落秋風五丈原
25
アーサー王伝説のパーシヴァルは実は…という話。ケイってアーサーの義兄なのに最初のうち割と性格悪で出てくるんですね。聖杯が必要な理由が独特。2024/12/17
もち
14
「あなたのことを知っていたら、迎えにいったのだけど」◆森の奥深く。秘境で暮らす少女は、日に日に聡く、強く成長していく。自然を縁に、秘された記憶や光景を視て、先を読み、姿を見られず敵を屠る――。力を試したくなった彼女は、騎士の座を目指す。■パーシヴァルを斬新に解釈して綺麗に纏めた、変わり種のアーサー王もの。元はアンソロジー用の短編のはずが、肉付けにより長くなり、別に出版された力作。伝説を知らずに読んでも、現代らしい視点を備えたファンタジーとして楽しめるが、ある程度の知識は必要か。2025/01/18
本の蟲
14
某ゲームの影響で少女化したアーサー王が随分広まったが、本作は「円卓の騎士パーシヴァルが実は女性だった」というもの。母と二人ひっそりと荒野で暮らしていた少女。成長するにつれ広い世界に憧れ、ペレティルという名を受け取って王アルトゥルスの戦士団に加わろうとするが…。トマス・マロリーがまとめた小奇麗な騎士物語ではない。ケルト神話の神々が現実に干渉し、アルトゥルス王、湖の乙女、王の剣や杯の探索も、すべて荒々しく野蛮な古ウェールズ世界の出来事として再解釈されている。200頁超の短い話だったが、幻想的で面白かった2024/12/24
練りようかん
13
アーサー王伝説を語り直した作品とあったが、大元をよく知らなくてもとても楽しめた。見つからないために洞穴で暮らす母子。名前すら言わないのが平安時代を想起させて興味深い。修飾語のやわらかさ、自然の匂いがしてくる描写が良い、謎を多く含む因縁と坊主と呼ばれる娘のルックス・性が母の苦慮とどう絡むのかが気になり滑らかに進んだ。世のルールを知り揉まれながら望みに近づく勇者と王夫婦に子供が生まれないこと。クィアを意識すると類似の物語に共通した片方の性による“よがり”が立体視でき、その上でのエンディングが鮮烈。面白かった。2025/02/15
rinakko
13
とてもよかった。円卓の騎士パーシヴァルの物語が、ペレティル(中世初期の設定に合わせた呼び方とのこと)という名の少女を主人公に語り直される。荒野の洞穴で母親から“贈り物”と呼ばれ、トゥアハ・デー(妖精神たち)の四つの偉大な宝をめぐる物語を聞かされ、外の世界を知らずに少女は育つ。読み始めて暫し、母娘の呪いの辛い話になるかと思いきや、一つ所に立ち止まらないペレティルが己の道を切り開いていく姿が頼もしくて、そんな懸念は消えてしまった。著者あとがきとその原注がぴりっとした内容で素敵だったので、他の作品も読んでみたい2024/12/12




