内容説明
京都市にある美大の油画科を休学中の稲葉真は、従兄の稲葉凛太郎の声がけで狩野探幽の血縁であり、父が狩野派を破門された清原雪信の娘・平野雪香が描いた襖絵の復元模写制作を手伝うことになった。チームメンバーは修士二年・土師俊介と修士一年・蔡麗華。襖絵は、十二面の花鳥図だが、現存するのは九面と切り貼りされた一部のみ。果たして三人は、復元模写を完成させることができるのか?創作することの苦悩と幸福を濃やかに描き切った感動長篇!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夢追人009
199
京都の美大で学ぶもバンドの絵描きとして仲間から爪弾きされて休学中の主人公・真が江戸時代の襖絵の復元模写という新たな目標をもらって一から学び優秀な院生二人と共に三人で期限に向けて挑戦していく感動の青春小説ですね。自らの行いを反省して一途に完成に向けてのめり込んで取り組んでいく姿勢は清々しく自分の若い頃を思い出させてくれました。遥か昔の江戸時代の絵師の魂が彼に乗り移ったかのような奇跡的な達成感が眩しいです。主人公の真にはこの大きな仕事を達成した後のさらなる活躍の続編を期待したいですね。#NetGalleyJP2025/02/15
ゆみねこ
74
愛野史香さん、初読み。京都の美大の油画科を休学中の稲葉真は、バンドのパフォーマーとしてそこそこ名前が売れていたが、メジャーデビューと同時に切り離され、傷心のままほぼ引きこもる生活に。従兄の凜太郎の声かけで、参加することになった襖絵の復元模写制作。日本画科の修士の土師と蔡との三人で挑む復元模写。創作への苦悩と喜び、芸術の奥深さを感じさせてくれ、爽やかな感動で読了。第16回角川春樹小説賞受賞作。2025/01/28
シャコタンブルー
61
タイトルを受賞作「真令和復元図」から変更して正解だと思う(笑) 「線は僕を描く」を彷彿させる内容で面白く読めた。300年前の襖を復元模写していく緻密な作業が描かれている。自己を殺し特徴づけるあらゆる要素を隠してひたすら描く。自分の好きなように描く他の絵画とは全く異なり、ひたすら黒子に徹する姿は忍耐と疲労に苛まれ、精神が崩壊しそうにもなる。原作者が襖に込めた意図。どこから風が吹いてくる。その風はどこに向かう。300年前と現在の人間が襖を通してひとつの心で結ばれていく過程が鮮やかだった。2024/11/15
えみ
48
江戸の時代、その絵師は何を見てどう考えてどんな想いを絵筆に乗せてこの絵を描いたのか…。ひとりの絵師が描いた襖絵が現代に生きる私たちに当時と変わらぬ感動を与えてくれる。そしてそこには歴史の橋渡し的存在、模写制作の彼らがいた。何がこんなに感動させるのだろう。挫折からの脱却、才能の上に努力を重ねて運も味方に付けながら新たに得た信頼を自信に変えて、心の重石を捨て去り友に支えられながら一歩また進んだ先の道の上に成長した姿。だろうか。襖絵の模写制作、日本画の受託研究。芸大の若者たちの成長と日本画の魅力が溢れる一冊。2024/12/08
ぽてち
34
元バンドマンの美大生が主人公。そもそも音楽はできず、ステージ上で音に合わせて絵を描くというパフォーマーだった彼は、バンドのメジャーデビュー時にメンバーから外されてしまう。鬱屈し大学も休学していたとき、いとこから襖絵の模写制作の手伝いを頼まれる。狩野派の系図に載っていない絵師の知られざる作品を修復し、かつ模写を制作するというアイデアがいい。その過程で、引きこもり状態だった主人公が立ち直っていく“喪失と再生”が描かれる。同じく日本画家で模写を手掛けていた父への軽侮に満ちた感情も、徐々に癒やされていく。2024/10/19