ブルーノの問題

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ブルーノの問題

  • ISBN:9784863855960

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内容説明

現代アメリカ文学を代表する作家のひとり、アレクサンダル・ヘモンの最初期短編集

故郷喪失者は言語の中でのみ生きることができる
たとえどこにいようが故郷には決していないのだから


原書が刊行されてから二十数年が経過し、サラエヴォ包囲自体は過去の出来事になったかもしれないが、むろん優れた小説はこの程度の時間で古びるものではないし、そもそもユーゴスラヴィアの惨事と消滅そのものは過去の話であっても、同じような事態が日々世界で生じていることは言を俟(ま)たない。(柴田元幸)

ヘモンがナボコフとのあいだに感じる親近感は語彙という面からくるものではなく、故郷を喪失した作家が共通して抱える「埋め合わせてくれるものは言語だけ」という感覚だという。(秋草俊一郎)

A・ヘモンによる『島』は、彼が英語で書いたもっとも初期の作品のひとつである。ヘモン氏はボスニア人であり、一九九二年にアメリカを旅行中、ボスニアでの戦争により帰国の道を絶たれてアメリカに移住した。『島』 を書いたのは一九九五年の春、もはや母語で小説を書くこともできず英語でもまだ書けなかった三年間を耐えた末のことだった。
スチュアート・ダイベック(『プラウシェアーズ』 1998年春号)

【著者】
アレクサンダル・ヘモン
1964年、旧ユーゴスラヴィアの構成国だったボスニア・ヘルツェゴビナ社会主義共和国の首都サラエヴォで生まれる。1992年渡米後、サラエヴォがセルビア人勢力によって包囲されたことで帰国不能になりアメリカに留まる。母語ではない英語で作品を発表するようになり『ノーホエア・マン』で高く評価。代表作に『世界とそれがかかえるすべて』など。映画『マトリックス レザレクションズ』ではラナ・ウォシャウスキー、デイヴィッド・ミッチェルと脚本の共同執筆も務めた。

柴田元幸
1954年生まれ。東京大学名誉教授、翻訳家。ポール・オースター、スティーヴン・ミルハウザー、レベッカ・ブラウン、スチュアート・ダイベックなどアメリカ現代作家を中心に翻訳多数。著書に『アメリカン・ナルシス』、訳書にジョナサン・スウィフト『ガリバー旅行記』、マーク・トウェイン『ハックルベリー・フィンの冒けん』、エリック・マコーマック『雲』など。講談社エッセイ賞、サントリー学芸賞、日本翻訳文化賞、早稲田大学坪内逍遙大賞を受賞。文芸誌『MONKEY』日本語版責任編集、英語版編集。

秋草俊一郎
1979年生まれ。日本大学准教授。専門は比較文学・翻訳研究など。著書に『アメリカのナボコフ―塗りかえられた自画像』、『「世界文学」はつくられる 1827-2020』、訳書にドミトリイ・バーキン『出身国』、ウラジーミル・ナボコフ『ナボコフの塊 エッセイ集1921-1975』、アレクサンダル・ヘモン『私の人生の本』、ホイト・ロング『数の値打ち―グローバル情報化時代に日本文学を読む』(共訳)など。

目次


アルフォンス・カウダースの生涯と作品
ゾルゲ諜報団
アコーディオン
心地よい言葉のやりとり
コイン
ブラインド・ヨゼフ・プロネク&死せる魂たち
人生の模倣
訳者あとがき

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。

ヘラジカ

41
濃厚濃密。ほんの数行読んだだけで呑まれるような、圧されるような空気に当てられる。ありきたりな表現で恐縮だが、まるで短篇小説とは思えない量感の傑作ばかりであった。どの作品もインパクト大で忘れがたいが、強いてお気に入りを挙げるなら、作中でも屈指のページ数を持つ「ブラインド・ヨゼフ・プロネク&死せる魂たち」、柴田元幸氏イチオシでトップを飾る「島」とそれに続く「アルフォンス・カウダースの生涯と作品」の三作。いずれも今年の短篇小説ランキングを作るならば間違いなく入る逸品だ。2023/11/12

まこ

9
作中の表現の多くが汚さや恐ろしさ、さらには死と直結して作者の子ども時代の壮絶さを伺わせる。作者個人の歴史とボスニアの歴史を照らし合わせて、当時抱いていた憧れを振り返る。アメリカに移住しても、アメリカの自由さを感じることはないのに、永住権を持ってることをアピールする矛盾。作者の本当の居場所はどこか2024/03/03

ぱせり

8
紛争下で日々命を脅かされる生活と、そういう危機からは遠くにいながら(いるために)狂気に近い苦しみに独り耐えること。迫害、虐待を受けながら、死ぬこともできずに生かされていること……。形を変えて語られる残酷な場面は、きっとどれも事実なのだ。それなのに、どの場面も静かでお伽話めいている。郷愁さえも感じるほど。2024/06/26

masabi

6
「ゾルゲ諜報団」ゾルゲに関連する註釈が本編の物語以上に気になった。ナボコフの作品でも註釈に仕掛けを仕込んだ作品があったなと連想したが、異国の地で英語で執筆した共通点もあるようだ。「心地よい言葉のやりとり」歴史にヘモン家の人間を関わらせようとするのだが、家系の神話創造といった趣き。その記録のためにビデオカメラを回していても編集の手が加わった仄めかしがあり、なんとも胡乱だ。故郷での少年時代、故郷喪失、戦争の最中の書簡形式と作者のバックグラウンドが色濃い。2025/02/19

マサ

4
著者はサラエヴォで生まれ紛争時アメリカに移住し2000年に本書を刊行とのこと。「ブラインド・ヨゼフ・プロネク&死せる魂」は紛争時の著者の体験が基になっていると思われ、感情を排して事実を積み重ねていく文章から故郷の悲惨な状況に対するプロネクの心情が浮かび上がってくる。他の作品にもウクライナ、バルカン半島の歴史の重さを感じるものが多かった。2024/12/02

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