内容説明
ジョシュアには子供の頃から不思議な力があった。太古の時代を繰り返し夢に見るのだ。
それは夢と呼ぶには、あまりにリアルだった。
彼は夢のことを“魂遊旅行”と呼んでいた。
成長したジョシュアは、夢に出てくるのが石器時代だと知り、古人類学者のブレアに夢について話す。
ブレアは“魂遊旅行”が本物だと認め、ジョシュアを国家的なタイムトラベルプロジェクトへ誘う。
それは黒人であるだけで、あらゆる場面で差別されてきたジョシュアにとって、自分を自由に解き放つ唯一のチャンスでもあった。
ジョシュアを過去へと送る実験はアフリカで行われた。
奇妙な装置に固定された彼がまどろみ目を開けると――石器時代だった。
そこでジョシュアは、ホモ・ハビリスと呼ばれる現生人類の集団と出逢う。
彼らと行動を共にするうち、やがてジョシュアは、ヘレンと名づけたひとりのホモ・ハビリスと恋に落ちる――。
異色のタイムトラベルロマンスであり、ひとりの黒人青年の魂の戦いを描いたネビュラ賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
niisun
21
人類の出現する更新生に時間旅行を行うというSF部分は、補助的な要素で、生まれながらの特性による差別、家族同士や国家間の葛藤が中心的テーマになっています。『時の他に敵なし』というタイトルではありますが、物語からは、“時”を“敵”と捉えているようには、あまり感じられませんでした。時の隔たりがあったから過去を支えにでき、未来への憧れも生まれるし、人と人との間に産まれたわだかまりやしこりも和らぐことが、語られているように思いました。更新生での原生人類との邂逅と交流は、若干、紋切り型だったかなと感じましたね。2022/05/24
もち
11
「あなたの眼くらい雄弁な眼は無かった」◆夢の中で200万年前の地球を彷徨う、黒人の青年。その夢は、本物だった――。タイムスリップした青年は、原住民の女性と恋に落ちる。差別の現し世も、未開の世界も、等しく地獄だ。極限状況で彼は、存在の結晶を手に入れる。■30年の時を経て邦訳されたネビュラ賞受賞作。差別と愛と宿命を丁寧に描くプロットに、古さは全く感じられない。超展開を経て家族の物語へ着地した後の、もう一捻り。そこから生まれる余韻に感心した。2022/03/06
garth
10
1982年の本とは思えずこれが2021年の最新SFでも全然いいんじゃないかという現代性。ザラカルはルワンダかブルンジあたりなのだろうか。2021/09/05
スターライト
10
かつて〈SFマガジン〉の座談会で、新しい『世界SF全集』を編むとしたら、そのラインナップはどうなるかを語る企画があったが、その中の1冊にこの作品があったように思う。冒頭のスライド・ショーのやりとりがあるように、本文でも時間線の出来事がモザイクのようにちりばめられ語られていく。魂遊旅行で過去の夢をみる特殊な能力を持ったジョシュアがホワイト・スフィンクス計画に抜擢され過去で体験する下りと現在の往還は多様なテーマをはらんでいるが、私的には家族の物語の印象が強い。時間SFであり文化人類学SFとしても傑作。要再読。2021/07/02
タカラ~ム
6
原書が1982年に刊行されて長年未訳のままだったという作品。異色のタイムトラベルロマンスとの惹句があるが、タイムトラベルした現代人と原始人の恋愛というのは確かに異色だろう。一歩間違えればイロモノ小説にもなりかねない。ただ、本書はラブロマンス的な要素よりは、タイムトラベルSFとしての要素と人種差別の問題、異質な者同士が相互に理解し合うことの困難さを描くことで人間関係の複雑さを浮き彫りにしているところが特徴的なのだと思う。2022/04/17
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