内容説明
人はなぜ、身に余る位や物を望むのか。
「この者は、〈またうど〉の者なりーー」
徳川家重の言葉を生涯大切にし続けた老中・田沼意次。
彼は本当に、賄賂にまみれた悪徳政治家だったのか?
【またうど】愚直なまでに正直なまことの者
全てを奪われても、志を奪うことは誰にもできない。
いつか必ず、次の一里を行く者がある。
財源としての年貢が限界を迎え、江戸税制の改革者として商人にも課税。
身分の低い者も実力さえあれば抜擢し、交易に役立つ俵物のため蝦夷地開発を決定。
前例や格式にとらわれず、卓見と奮迅の働きで日の本を支えた田沼意次は、
なぜ突如老中を罷免され領地を失ったのかーー。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
いつでも母さん
155
もちろん会ったことなどない人物。日本史の授業やドラマや小説で沢山登場して、その人物像はいかにも=「悪徳」と脳内で変換されている。そのイメージで出来上がっていて勝手に知ってる人な感じの田沼意次!こうして刷り込まされている怖ろしさを今作でまた痛感した次第。誰がどのようにスポットライトを当てるかで物語は変わるのだ。ごめんね意次さん。【またうど】そんな言葉を一度でいいから言われてみたくもある・・2024/11/16
hiace9000
137
死没より二百三十数星霜、生前の功績再評価がこれほど顕著な人物も珍しい。中学の教科書では完全悪役だった《田沼意次》その人である。家重・忠光の君臣の義を描いた『まいまいつぶろ』からの本作。九代家重に抜擢され、十代家治の治世で卓見と奮迅の働きを見せた意次。金融危機や天明の大飢饉、国難打ち続く中、全き人"またうど”たらんとして生き抜いた信義・先見性・知力・胆力・包容力・政治手腕。忠孝の志半ば命運尽きるも、引き際の美しさと、民を思い国を思う同輩や臣下との交誼には落涙を禁じ得ない。上に立つ者の襟を正す一書である。2024/10/05
KAZOO
135
村木さんの「まいまいつぶろ」「まいまいつぶろ お庭番耳目抄」を読んでの続きのような感じです。前作などに引き続いて田沼意次の生きざまを描かれています。私も従来の一面的な意次のイメージ(例えば佐伯泰英さんが描くような)を持っていましたが、池波さんの小説(剣客商売)などを読んで様々なイメージがあると思いました。どちらかというと配下にも恵まれていたのでしょうが経済改革についてはかなりの功績があった気がします。2025/07/25
タイ子
133
老中・田沼意次とは本当はどんな人物だったのか。と思っていた私の疑問に本作は村木さん流の返しをしてくれたと思う。見方によっては悪人にも善人にも言われた政治家。前2作ありきの本作。かつての思い出話にこちらまで胸が熱くなる事もしばしば。意次が最後まで仕えた家治の信、そして天変地異の中意次の経済センス、行動力が活きる。それを面白くないと思う者も出て来る。それが後に意次の悪人評を残した謂れなのかもしれない。意次と妻の仲睦まじさも微笑ましくていい。またうどと書いた一枚の紙が一生の宝とは何と羨ましいことか。2024/10/16
はにこ
127
田沼意次のお話。とある作品で田沼意次がめちゃめちゃ悪役だったからそういう印象が私の中に根強くあるんだけど、彼の目線から見るとまったく違うように映る。彼なりの信念を持って江戸を良くしようと思っていたのが伝わる。経済をよくするのは本当に難しい。この物語以降だけど、松平も意次の逆をいって失敗してるしね。悪役ばかり背負ったし、色んな人を失ったけど、奥さんと仲睦まじいのが救いだったのかな。2024/09/20