内容説明
いつかきっと、いろんなことがわかるようになる。
母を病で失った五歳の「僕」は、いくつかの親戚の家を行き来しながら幼稚園に通っていた。大人たちが差し出す優しさをからだいっぱいに詰め込み、抱えきれずにいた日々。そんなとき目の前に現れたのは、イギリスからやってきた転入生のさりかちゃんだった。自分と同じように、他者の関心と親切を抱えきれずにいる彼女と仲良くなった「僕」だったが、大人たち曰くこれが「初恋」というものらしく……。
コンビーフのサンドイッチ、ひとりぼっちのハロウィン、ひみつの約束、悲しいバレンタインデー。
降り積もった記憶をたどり、いまに続くかつての瞬間に手を伸ばす。
第36回三島由紀夫賞候補作、第45回野間文芸新人賞候補作となった『息』に続く、注目の若手による最新中編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
美紀ちゃん
63
丁寧で静かな文章がとても良い。 5歳で母を亡くし、その頃の気持ちを思い出す今の僕。 他者の関心と親切 に居心地の悪さを感じる。 その気持ちを共有できる女の子、イギリスからの転入生さりかちゃん。 わかってくれる人がいるのは、とても心強い。 2人の、言葉にできない想いがあふれていて、胸が締め付けられる。 かわいい天くんを応援したくなる。2024/10/25
えんちゃん
62
母を亡くした5歳の男の子。父、叔母、祖母、自分の居場所を作ってくれた色んな大人たちと、外国から転園してきたさりかちゃん。優しさに守られていた『あのころの僕』を、高校生になった僕が思い出し、そのとき感じた想いを丁寧に書き綴った文学作品。すばるかなと思ったらやっぱりすばるだった。私が5歳のときも、思ったことはたくさんあったはず。そして、自分の子供が5歳のころを思って懐かしくなった。さりかちゃんには会えたかな。会えるといいな。2025/07/02
Kei.ma
22
この本は、読むというより並んだ活字が「そうそう」と色々なことを浮かばせる装置のようだ。だから主人公の幼稚園の記憶が僕のその頃の風景を引き出してくれるんだ。だけど古い記憶はだいたい薄色なのかな。仕方ないから目をぐっと開けるようにしてかき氷の色を探したよ。クラスの皆んなには内緒だけど僕も高一のとき十年ぶりに再会した。驚いた、僕のどこかに隠れていた記憶がこんなにも掬えるなんて。2025/08/04
さく
18
とても良かったです。5歳の天くんは、母を病気で亡くしたばかり。父は家にほとんどおらず、自宅、叔母の家、両祖父母の家、と四つの家を渡り歩いて生活していた。そんな時に、イギリスからの転校生、さりかちゃんに出会う。この物語は、さりかちゃんと過ごした日々を、大人になった僕が思い返して描いた物語。5歳ってこんなにいろいろ考えるもの?とも思うけど、きっと、言語化できないだけで、子どもの心の中にはきっといろんな感情があるんだよね。息子が5歳の今、この本が読めて良かった。息子の今を大切にしたい。2024/11/24
A S
16
母を亡くした5歳の天は父、親戚の家を行き来し、愛情深く見守られながら幼稚園に通っている。そこに海外からの転入生さりかちゃんが現れ、周りから差し出される親切を持て余した二人は意気投合する。二人が仲良くなるきっかけのコーンビーフサンドウィッチや、父と出かけた旅行先で見る朝焼けのシーンなど、ひとつひとつのエピソードがとっても印象的。高校生の天が回想する形で5歳の天の日々が繊細に丁寧に描かれていて、切ない余韻がのこった。前作「息」も良かったので、著者の今後に期待大。2025/01/22