内容説明
7年間小説を書けずにいる小説家――「私」は、目にとめた新聞広告に衝撃を受ける。そこには、「この本を書いた人を探しています」というフレーズと小説の一部が掲載されていた。その小説は、「私」がデビューする前に、誰にも知らせずに投稿していた作品だったのだ。事情を調べ始めた「私」は、謎の多い女性「イ・ユミ」に辿り着き、彼女の人生を追うことになる。
ある時は、キラキラした女子大生。ある時は、評判のいいピアノ教師。ある時は、センスのある大学講師。ある時は、優しい医師。またある時は、ーー。
虚像で塗り固めた幾重もの仮面の裏から徐々に表れる真実の素顔。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ふじさん
84
図書館本。7年間小説を書けずにいる作家が偶然目にした新聞広告に、作家デビューする前に投稿した作品が掲載されていた。ここから物語は始まる。事情を調べ始めた作家は、謎の多い女性に辿り着き、彼女の書いた日記等から、彼女の嘘で固められた波瀾の人生を追うことになる。イ・ユミ、イ・ユサン、Mと次々と名前を変え、ある時には、キラキラした女子大生。ある時は、評判のいいピアノ教師。ある時は、センスの大学講師。ある時は、優しい医師と。男性中心の社会で生き残るために、経歴詐称を繰り返し、虚像で塗り固めた姿が徐々に明らかになる。2024/11/11
ケイティ
29
失踪したユミという人物を探す女性小説家と、ユミの半生が交互に描かれるミステリー仕立てのストーリー。全体的に淡々と冷めた心理描写と視点が切なく胸に刺さる。嘘と偽りで塗り固めたユミの過去が少しずつ明らかになるが、大半はパズルを完成させるためのピースをはめるような地道なもの。生来の悪人でなく生存戦略でもあり、偽った先々で不思議と輝く存在感がある。事実は一つでも、気持ちや状況が変われば嘘にカウントする人もいて、何が嘘で真実かは人の数だけ醸成されていく。断罪せず、その虚しさや欲望、閉塞感に迫る情緒がとても良かった。2024/12/20
nekomurice
5
ずっと嘘をついているのは相当しんどいだろうなと思っていたら「ずっと変わらぬ切実な願いはただ一つ、本物の自分は誰なのかを忘れることだった。変装と嘘のほうが実物だと言じ込む錯乱状態に陥ること。」(この言葉ももう信じられないけど)とあって、思っているよりはるかに重症だった。あの時のあの嘘からここまで嘘で固められた人生になるとは…。2024/12/03