内容説明
戦後のジャーナリズム研究で、鈴木庫三は最も悪名高い軍人である。戦時中、非協力的な出版社を恫喝し、用紙配給を盾に言論統制を行った張本人とされる。超人的な勉励の末、陸軍から東京帝国大学に派遣された鈴木は、戦争指導の柱となる国防国家の理論を生み出した教育将校でもあった。「悪名」成立のプロセスを追うと、通説を覆す事実が続出。言論弾圧史に大きな変更を迫った旧版に、その後発掘された新事実・新資料を増補。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
119
永田鉄山の言葉「陸軍に於ける平時業務の大部分は教育である」を体現していたのが鈴木庫三ではないか。茨城の貧しい小作人が死ぬほど勉強して士官学校に進み、立身のため学ぶことの難しさを熟知する男が教育将校になったのだから。ただ苦学力行の人にありがちだが自分に強烈な自信を持ち、努力を怠ったり都会のエリート然とした者を許せなかった。彼らより筆も弁も立った鈴木に反論できなかった新聞出版関係者は、戦後すべての罪を鈴木個人になすりつけて自らの正義を宣伝したのだ。「ペンは剣よりも強し」というが、ペンが武器の兵士に勝てるのか。2024/06/27
KAZOO
98
このような本を新書で読めるとは思っていませんでした。内容はかなり専門的で学術書的な部類に入るのではないかとも思いました。戦時中に、言論統制の現場の人間として鈴木庫三がどのような考え方で対応を行ってきたかを書かれたものです。またこの人物がどのような生い立ちであったのかもよくわかります。いわゆるエリートではないのですが、自分の考え方に自信を持っていて軍人官僚として生きたさまを描いています。城山三郎さんが書かれたような小説にしてもいいと思います2024/10/02
gorgeanalogue
15
国分一太郎の殴打事件捏造などのエピソードは文句なく面白い。ファナティックな「青年将校」が「ジャーナリスト」を怒鳴りつける…というイメージはほとんど「戦後的なもの」だった。むしろ統制する側と統制される側は結託して「統制」をつくりあげていたにも関わらず、また鈴木倉三はその理念からしてほとんど社会主義者であるのに、戦後の「良心的ジャーナリズム」の自己弁護に利用されてしまう。全編呵責のない書きぶりではあるものの、終章の鈴木に対する同情は、ほとんど著者が思想的に鈴木に接近していくかのような様を窺わせて興味深い。2024/08/03
Tomozuki Kibe
5
表題で予想していたのとは全く違う一人の軍官僚の評伝。軍部の「剣」に言論の「ペン」が委縮させられていた戦時中。その象徴とみなされた鈴木倉三…。これまでは被害者側の証言のみで語られた史実に対し加害者側の弁護人が登場。日記を丹念に読み込むことで、その人物像が単なるファナティックなファシスト「日本のヒムラ―」ではない。小作農から苦学して下士官→士官になった彼にとって都会の遊び人が敵であったこと・皇道派に走るには現実を知りすぎていたこと・高い教養を身に着けた彼は社会主義にむしろ同情的であったことが分かる。(続く)2024/08/16
預かりマウス
3
茨城の貧農から苦学して陸軍士官学校に入り、猛勉強の末に東大派遣生として倫理学や教育学を学び、カントを原典で講読したと言う、異色の陸軍大佐(最終階位)の鈴木庫三。一般的には内閣情報局情報官として言論弾圧に辣腕を振るった、和製ヒムラーとまで言われている人物(本書を読むとどちらかというとゲッベルスに近い気がするが)。その虚像が形成された経緯を克明に追う内容が中心である。実際には体制に迎合的・共犯的な関係にあった出版界が、戦後に自分らの免罪のための悪玉としての鈴木情報官を必要としたという構図を完膚なきまでに暴く。2024/12/07
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