内容説明
日本の敗戦前後、あまたの公文書が焼却されたと言われている。しかし、決裁文書などを除く多くが「私文書」として個人の手許に残されていた。これらの資料を、占領期に積極的に収集したのが、フーヴァー研究所東京オフィスであった。
フーヴァー研究所は、スタンフォード大学の第一期卒業生であった第31代米国大統領ハーバート・フーヴァーが1919年に設立した研究機関。戦後、フーヴァー自身、占領下の日本、ドイツに赴き、占領政策にコミットした。その一環として、資料収集計画があった。
駿河台の東京オフィスを拠点に、1945年11月から1951年3月まで、書籍・専門書・新聞などを含む1468箱が海路米国に持ち出された。これらの資料には、「GHQ直筆・日本国憲法の原文」「東京裁判の宣誓供述書」「関東軍特務機関の阿片政策」「日本共産党員の獄中手記」「特高警察の極秘史料」などの一次史料が多数含まれ、「フーヴァー・トレジャーズ」(Hoover Treasures)と呼ばれることになった。
本書は、こうして形成された「フーヴァー・トレジャーズ」から占領秘史にせまろうとするものである。そこで浮かび上がるのは、日本国憲法制定をめぐるGHQと吉田茂の取り引き、東京裁判における天皇免訴をめぐる暗闘、満洲国の財政を支えた阿片政策とそれを担った三菱・三井、日本国内での阿片栽培……などの新事実である。
戦後に改竄された「歴史の欺瞞」を炙り出す試みであり、『國破れてマッカーサー』の続編、発展版とも言える著作である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
うえぽん
46
日大時代の師弟が、占領期に収集され、スタンフォード大フーヴァー研究所に秘蔵されていた数十万頁の文書等を素材に書いた作品。主なテーマは、日本国憲法制定に至るGHQと日本の間の交渉、東京裁判で裁かれた戦犯と検察側への協力者の行動、特高警察と治安維持法の運用のあり方。全体的に、検証し難い密室での交渉や尋問等について、本人等による後日談と反対当事者による記録との不一致を指弾する内容だが、記録の方も都合良く作られた可能性やその解釈が妥当なのかに留意が必要。個々の事象より、人間の責任回避、手柄自慢の共通性が印象深い。2025/08/17
CTC
10
7月の中公文庫新刊。著者はスタンフォード大のフーヴァー研究所の新旧リサーチフェロー(2人による共著)。終戦後、公文書が次々と燃やされる情況の中で、10月中ば、本邦スタンフォード大卒業生らはなぜ戦争に突入し大敗したか、根本原因を探るため、「記録文書の保存が不可欠だ」と会合し、東京オフィスを設立した。食糧や米ドルと引き換えに貴重な文献を蒐集、期間5年、1,768箱もの量という。本書はこれらでもって“神話”ではなくて“史実”を導こうとするもの。味付けが濃いと感じるが…歴史の一面を視る読み物として面白さは抜群。2024/10/21
おもろい於間抜
6
アメリカ合衆国については戦後の日本の占領軍としていろいろと思いはあるけれども、公文書をきちんと残しているという点は間違いなく尊敬に値する国家だと思った。ということはわが日本国の敗戦国家とはいえ公文書の扱いが雑なのは伝統芸なのか残念なことである。たしかに神話は崩壊するなあと読みながら思いました。2024/10/24
TI
5
思っていたより面白かった(前半)。昭和天皇の話はさほど出てこず。日本憲法はマッカーサーがそばにいた部下にそのばで草案を書かせ1週間で作ったものでこんなものを後生大事にする必要はなし。結果として同じものになるにしても日本人が作って国民投票で決めるべき。本当にひどい話。 後半の特高警察や共産党の話はまあそうだよと言った感じであまり興味なし。2025/05/04
Shinya Fukuda
1
憲法改正、東京裁判、特高警察が中心テーマ。白洲次郎の評価が低い。通説ではGHQに対して一歩も引かなかったとなっているが著者によれば返り討ちにあっているとなる。楢橋渡の名前は初耳だった。怪しい男満載の時代だったがこの人もその一人か。東京裁判では田中隆吉についてが詳しい。裏切者という評価が通説だが田中側の理屈も紹介される。麻薬のことについても詳しく書かれている。特高警察については非難の連続。しかし見る立場を変えれば法律を厳正に適用しようとした訳で行き過ぎはあったにしても認めざるを得ない点もあるのではないか。2025/01/08