内容説明
ブッカー国際賞受賞!友よ、おまえの魂はどうすれば救われるのか?親友の凄惨な死に立ち会ったセネガル歩兵。やがて彼は夜ごと敵兵に復讐する“英雄”となるが……。第一次大戦の極限状況に迫る、戦争文学の新たな傑作
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
136
文明とは無縁に生きてきたアフリカの黒人青年が第一次大戦に投入され、兄弟同様に育った友の死をきっかけに壊れていく。フランス語を話せず究極の孤絶にあって、他者より優位に立つには行動で示すしかなかった。戦場で敵の腕を切り取っては戻ってくる彼を、最初は英雄扱いした戦友もやがて恐れるようになる。近代兵器で大量殺戮する「文明化された戦争」こそが野蛮であり、個人対個人の原始的な殺し合いこそ人間らしい姿なのではないか。こんな状態に彼を追い込んだ戦争と、彼のなした殺戮行為のどちらが残酷で不正義なのかを強烈に問いかけてくる。2024/10/10
藤月はな(灯れ松明の火)
76
兄弟のように育つも第一次世界大戦に召集されたマデンバとアルファ。だが、死に掛けの青い目の兵士の手によって瀕死にさせられたマデンバの懇願を叶えなかった事で、アルファは以前のアルファではなくなった。目を開かされたアルファは儀礼として殺した敵兵の腕を狩った・・・。当初は味方から英雄視されるも4人目に差し掛かると周囲は彼を異常と見做すのは当然だった。何故ならアフリカ大陸出身者にとっての戦争中の野蛮さは優位になる為の演技でしかなく、司令官のアルマンにとってはその野蛮さはコントロールできるものであるという前提だから。2024/10/06
たま
72
セネガルの農村の青年アルファが第1次大戦中フランスに動員され塹壕戦を戦う。親友が目の前で苦しみながら死んだことを契機にアルファは覚醒し自分なりの考えを紡ぎ始める。塹壕から飛び出し敵兵を殺しその手(1)を戦利品にする。初めは彼を称賛していた上官と仲間は彼を気味悪がるようになり、後方(精神病院)へ送られる。こう要約すると戦争と植民地主義への抗議の小説と読める。もちろんそうなのだが、ただこの小説はアルファの力強くシンプルでリズミカルな語りが特徴でアルファの語り自体には戦争への抗議はない。→2025/04/26
R
59
第一次大戦中のフランス軍内におけるセネガル兵士の物語。その時代には当たり前であったろうセネガル兵士への偏見が戦争の中でどういう役割を押し付けたか、戦時の狂気にどう中てられたかを描いた物語で、呪術を信じたり、そういう狂気を演じたりすることで、戦場で役に立ち、死にといったことが繰り返される中、正気を保っていると信じながら狂ってしまった男の独白が、孤独と妄信を見事に表していて、戦争の悲惨さと、その周辺にある人間社会の残酷を描いていて読み応えのある小説だった。2025/04/03
シャコタンブルー
58
第一次世界大戦でフランスに動員されたセネガル歩兵のアルファの苦悩が語られる。兄弟以上の存在だった友人をドイツ兵に殺され復習の鬼となったアルファ。敵を殺戮してその手を切り落とし持ち帰る。3本目までは英雄扱いだったが4本目からは空気が変わっていく、そして7本目に至っては味方からも狂人、怪物とみなされ恐れられる。その存在自体が悪魔のように思われていく。怒り苦しみ痛み悲しみ、人間からあらゆる感情を奪っていく戦争の狂気が描かれている。「彼はいってます、自分は死者であると同時に生者だと」2024/08/14