内容説明
本書の大きなテーマは2つ。1つ目は重症トラウマへの治療。子ども虐待によって生じる発達性トラウマ症ならびに複雑性PTSD親子への家族併行治療の実践報告であり、TSプロトコールを用いた治療である。重症トラウマの臨床は、多重人格への治療が必要になるなど、通常の精神科臨床とは非常に異なった展開や独特の要素が多彩に認められる。様々な精神科疾患の診断基準を満たすため、まさに誤診の山であり、この領域への治療実践はわが国においては未開拓の部分が大きく、臨床の現場で苦闘されている方々に参考になるのではないかと思う。
2つ目は、精神科の診断をめぐる混乱である。DSMに代表されるカテゴリー診断全盛の中で様々な弊害が目につくようになった。そだちの臨床、とりわけ神経発達症をめぐる精神科臨床においてその弊害が特に著しい。精神科の診断が、あたかも実態があるもののように一人歩きしている現状があり、それが精神科臨床のみならず、教育にも大きな混乱を引き起こしている。もちろん診断をめぐる問題は、1つ目のテーマであるトラウマ臨床にも大きく関わってくる。DSM診断で神経発達症と診断されるのに、神経発達症への治療を行ってもまったく改善しない事例がしばしば認められるが、それらは言うまでもなく、トラウマを基盤とする発達性トラウマ症の子どもや、時として大人である。このような場合、ともかくトラウマ処理という特殊な心理治療の実践が最優先になる。II型トラウマによって引き起こされるフラッシュバックの治療をまず実施しないと、何が問題なのかまったく見えてこないからである。
目次
第I部 発達性トラウマ症とその臨床
第1章 トラウマ処理を学び臨床を拡げよう――総論にかえて
今日のわが国の臨床とトラウマ処理
長期反復性トラウマの臨床像
簡易型トラウマ処理――TSプロトコール
TSPの臨床
1.家族併行治療の実際
2.TS自我状態療法
3.小トラへの応用
おわりに
第2章 トラウマ処理とはどのような治療か
はじめに
トラウマ処理の2つの系列
1.トップダウンの処理法
2.ボトムアップの処理法
C-PTSDへのトラウマ処理技法の変遷
簡易型処理を用いた治療パッケージ
1.少量処方パッケージ(TS処方)
2.治療前にチェックが必要な病態
3.手動によるトラウマ処理の実際
第3章 新たな簡易型トラウマ処理プロトコールによる複雑性PTSD患者へのランダム化比較試験による治療研究
はじめに
対象と方法
1.対象
2.極少量処方と漢方薬
3.簡易型トラウマ処理
結 果
1.1クールの治療回数
2.全体的な結果
3.それ以外の変化
4.その後のフォローの結果
考 察
1.TSプロトコールの有効性
2.従来のトラウマ処理の問題
3.スタンダードなEMDRとの比較
4.今回の限界
第4章 発達性トラウマ症と複雑性PTSD親子への家族併行治療
はじめに
発達性トラウマ症と複雑性PTSD
1.神経発達症の古茶分類による整理
2.慢性のトラウマによって何が変わるか
簡易型トラウマ処理を用いた親子併行治療
1.トラウマ処理
2.TSプロトコールの概要
3.処理の実際
症 例
おわりに――若い児童精神科医へのお願い
第5章 自我状態療法
自我状態療法の概要
1.多重人格生成の病理
2.自我状態療法の概要
症 例
自我状態療法の活用
1.リソースに会いに行く
2.喪の作業
おわりに
第6章 子育て困難家族の臨床
はじめに
子育て困難家族への治療
1.子育て困難家族の実態
2.治療の妨げになる様々な「常識」
3.治療の実際
4.TSプロトコールについて
5.愛着の修復
6.処理の前にチェックが必要な精神症状
7.薬物療法、TS処方パッケージ
子育て困難家族とドタキャン
1.複雑性PTSDとドタキャン
2.ドタキャンへの対応
第II部 精神科臨床の課題と展望
第7章 精神医学の診断をめぐって
精神医学は何処に行くのか
カテゴリー診断とディメンジョン診断
トラウマとその後遺症
向精神薬は科学的に有効なのか
これからの精神科診断とは
第8章 反応性愛着障害(reactive attachment disorder)
愛着と愛着行動の類型
ほか
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