内容説明
彰子皇太后への宮仕えを辞して出家した紫式部(香子)は今、彰子が手配してくれた質素な宇治の寺の庵に一人で暮らしている。彰子の元には、娘の賢子が出仕中。彰子の異母弟と恋仲になり、宮中生活を謳歌している。そんな折、香子は顕光左大臣の息女の延子より『源氏物語』の続きを促す便りをもらうも、関節炎が悪化しなかなか筆をとることができない。香子の周囲で、薬を盛られたであろう猫が発見されたりと、どこかきな臭い。一方で香子の侍女だった阿手木は筑紫に渡り、「刀伊の入寇」に巻き込まれる……。王朝推理絵巻、完結篇。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
真理そら
59
『千年の黙』『白の祝宴』『望月のあと』に続く源氏物語&探偵紫式部シリーズ第4弾。宇治に籠った紫式部(香子)の晩年、道長は出家し、アテギが下った大宰府は「刀伊の入寇」で騒然としている。道長の息子・能信は道長の宇治の別荘の管理で宇治を訪れることが多い。能信の妹・寛子が嫁した小一条院も宇治を訪れる。宇治十帖の物語とリンクさせながら話は進む。道長の息子(明子腹だが倫子の養子になった)長家が御子左家の祖?なので藤原定家と「かがやく日の宮」にまで言及されていて源氏物語好きには大満足の作品だった。2025/06/18
がらくたどん
54
「だって、あなたは腹が立ちませんか?」光り輝く男性の栄華の道すがらで愛でられ捨てられ偲ばれる女性の生涯を綴って来た源氏物語。中の品の女性だけではない。上の品でも政治の駒として豊かな暮らしと引き換えの枷が待つ。物語の上で源氏が「幻」の終活を経て「雲隠」の帖題と共に生涯を閉じた後、現職を退き道長とのしがらみからほぼ開放された式部が隠居所の宇治で綴った最弱ヒロイン浮舟の生きて毅然と立つ外伝十帖に念じて込めた「これからの女性達」への祈りとは。宇治では毒が、大宰府では刀伊が。風雲急を告げる完結巻!結構なお点前でした2024/07/23
藤月はな(灯れ松明の火)
48
最終巻と、読んで気づく体たらく。出家し、手指の関節炎に悩みつつも物語を執筆する紫式部。しかし、末法の恐れより、「物語を紡ぐ=嘘を広める業」への忌避が蔓延しつつあった。それでも(余りに現代小説的である為に異色な)宇治十帖が編まれた理由とは・・・。つい最近、再読した『源氏物語』では物語を通して当時の拠り所が心もとない女性の遣る瀬無さへ寄り添ったり、移り気の早い男性陣への苦言していたのに気づく事ができた。だからこそ、この物語の紫式部の姿勢は私の解釈にドンピシャでした。そして最後が藤原定家で〆るのがとても粋!2025/09/26
アルピニア
47
「供養」という題名がぴったりの物語。源氏物語に関する謎(輝く日の宮の帖、作者別人説 等々)の答え(森谷説?)を散りばめつつ、源氏物語によって悩みを抱えた人々を薫子が導く。当時の人々が源氏物語をどのように受け取ったのか・・森谷さんの描き方を興味深く読んだ。あとがきによると、この物語は森谷さんが大学生の頃にはじめて「宇治十帖」を読んだ時の感想が基になっているそうだ。その感想がなんとも吃驚で笑ってしまった。その感想がこの作品へと膨らんだとは・・。森谷さんの想像&創造力をたっぷり楽しませてもらった。2024/07/30
kagetrasama-aoi(葵・橘)
35
「王朝推理絵巻 完結篇」「千年の黙 異本源氏物語」の後書で、確か次作は「宇治十帖」にテーマにしたいとお書きになられていた覚えが。作者さまにとってもさぞかし思い入れがあったと察っせられる今作でした。都の宮中の華やかさも良いですが、この時代の太宰府の生々しい「刀伊の入寇」の描写に圧倒されました。登場人物も多岐にわたり楽しかったです。脩子内親王がこの世界で自分を貫いた人生を送れたことが嬉しくて、思わず涙が滲みました。作者さま、素敵な物語をありがとうございました。暫く「源氏物語」の世界の余韻に浸りたいです。2024/09/10
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