内容説明
第三帝国といえば、ゲシュタポの監視のもと恐怖と暴力で国民を支配したイメージがある。しかし、当時を回想する住民証言から現れるのは、ナチズムへの不満や批判ではなく、むしろ正反対の「ナチスの時代はよい時代だった」という記憶だ。ごく平凡な普通の人びとが、ナチズムとは一定の距離をおきながらも、非政治的領域のルートを通じ、政策を支持するようになる。農村ケルレと炭鉱町ホーホラルマルクという、二つの地域での詳細なインタヴュー資料を中心に、子どもや女性までもが、徐々にナチ体制に統合されていった道程をあばきだし、現代のわれわれにも警鐘を鳴らす一冊。
目次
第一章 褐色の農村と赤い炭鉱町/1 褐色の農村──ケルレ村/2 すっきりしない状況の成立/3 赤い炭鉱町──ホーホラルマルク/4 悪い時代のはじまり/第二章 ヒトラーが政権についたとき/1 ナチスは外からやってきた/2 全体としては、がまんできた/3 たいしたことはなく、なにもおきなかった/4 もう他人を信用できなくなった/第三章 民族共同体の夢と現実/1 記憶に残らない不満と批判/2 いい時代だった/3 行ったこともない旅行の記憶/4 たいていの家でもめごとがおきた/5 ハンチングはタブーだった/第四章 ユダヤ人、戦争、外国人労働者/1 内に向けて発動される人種主義/2 もったいないという反応/3 戦争さえなければよかったのに/4 いまでもそのことを恥ずかしく思う/あとがき/ちくま学芸文庫版あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
55
極めて面白し。ナチス時代の人々がどう過ごしてきたか。を農村と炭鉱街から明らかにした一冊。戦争とか外交とかという大きな問題ではなく、人々の暮らしの語り、当時の語りからそれを浮かび上がらせる手法からか、そこに暮らす人々の肉声が聞こえてきそう。面白いのは農村で全体主義より共同体の利益が優先する部分かな。例えば共産主義者が多いため禁止されたサイクリングサークルの自転車を村の利益を守るため古参ナチ党員が隠したり、ユダヤ人が一人もいない村が迎合のため反ユダヤのポスターを貼ったりする部分。人々の強かさを感じました。2026/05/07
marty@もぶおん学
8
農村と炭鉱街の住民たち、いわゆる「普通の人々」がナチズムをどのように受け止め、ナチスの時代をいかに生きたのか解き明かされる。農村には馬農家-牛農家-山羊農家という階層秩序を前提とした村社会独特の掟のようなものがあり、炭鉱街には鉱夫たち同士の連帯感がある一方で彼らを管理する職員との間には厳然とした上下関係が存在しており、農村も炭鉱街もその共同体の文脈の中でナチズムが住民たちにある意味したたかに利用されている点が興味深かった。本書の対象外であるカトリックが強い地域、自由主義的な都市などの事例も知りたいところ。2024/06/23
Hiroshi
7
親ナチ的な村としてヘッセン州北部のケルレ村、反ナチ的な自治体としてルール工業地帯にある炭鉱町のホーホラルマルクを選び、それぞれの住民がナチズムをどのように受け止めどのように対応していたのか、ナチスの政権獲得から第2次大戦の終わりまでの日常生活を観察することで分析した本。親ナチ・反ナチの比較よりも日本との比較で驚くことがある。ドイツでは30年代後半をよき時代と認識している人が多いのだ。長い絶望と幻滅の時代が終わり、未来への希望と信念が生まれてきた時代だと。ナチというとゲシュタポがいて、厳しい統治と思われる。2024/12/05
ポルターガイスト
6
戦後神話を日常から解体する試みのナチスドイツ版。『この世界の片隅に』系。テンポがのんびりしており,個人的にはそんなに刺激を強く受けたわけではなかったが,興味深く読めた。歴史関連の仕事をする人間としてはこういうのを一度は読んでおきたい。2024/10/20
よしくん
6
ナチ支配の実態を農村と炭鉱でのインタビューをもとに解き明かす試み。僕が強く感じたのは村が平穏な秩序を維持しようとする「村の論理」のしぶとさだ。必要ならナチに協力も反発もする。中央の政治とは全く違う論理が働く。農村にある30年前の母の実家と似ていた。家同士の関係は江戸時代の関係が温存されていたり、祖父は「あそこの家はアカだから」とかボロクソ言いつつもお付き合いは欠かさない、政治と付き合いは全く別物って価値観がそっくりだ。中学生なりに、学校で習った民主主義と農村の実態の乖離にショックを受けた日を思い出した。2024/09/24




