内容説明
公刊資料を処理することによって、対象国の意図や能力を考察・分析する。こうした情報活動は、教科書を通り一遍読んだから即出来るものではない。数十年にわたる地道な努力の繰り返しと試行錯誤の結果、何とか会得した「奥義」がものを言う世界で、「知恵の戦い」の現場であった。これは〝007のいない情報活動〟に関する記録である。
誰も皆、情報を重要というが、誰も情報を重視していない。これが、四半世紀にわたり情報活動に携わった私の結論である。防衛省・自衛隊において、ひいては日本政府、日本人という民族が抱える問題点であろう。しかも、様々な改革が試みられながら、一向に改善がみられない。これは、日本の文化に起因する問題なのか、日本人の気質によるものなのか。あるいは情報に係わる機構や制度の問題なのか。在職中も、そして退職後も抱き続ける疑問となっている。(本文より)
目次
序章 「さらば市ヶ谷台」―情報活動と私
自衛隊勤務最後の日/007のいない情報活動/自衛隊の組織と「モス」
第1章 私の生い立ち(1961年~1984年)
幼年時代/少年時代/中学時代/高校時代/大学時代/1980年代の国際情勢と国際関係論への目覚め/自衛隊入隊の理由
第2章 スパイへの助走(1984年~1988年)
自衛隊入隊・久留米へ/「U」と「B」/通信大隊の日々/調査学校と中国語モス
第3章 陸自中央資料隊の日々(1988年~1997年)
『新情報戦』が描く情報部隊/資料隊の仕事/クリッピング―切り抜きを笑う者は切り抜きに泣く―/天安門事件への対処/台湾海峡危機への対処/中央資料隊勤務最後の日々
第4章 防衛省情報本部の日々(1997年~2012年)
「日本最大の情報機関」誕生/「ないない尽くし」の中の船出/情報専門官ながら「分析官」扱い/鄧小平死去への対処/香港返還とVIP報告/分析官がみたSARS騒動/「情報交流」最前線/中国との闘い/防衛省の二人の「天皇」/〝戦力外〟分析官の日々
第5章 情報活動25年を振り返って
分析部時代の回顧/今後の情報活動改善への提言/情報保全への思い/退役将官「論壇活動」への異論
終章 軍事アナリストがみた中国
第2期習近平体制の人事的特徴/「中国脅威論」に欠けているもの/「戦略的国境論」の虚実