内容説明
1899年、ハワイのホノルルをペストが襲った。チャイナタウンと呼ばれる、中国や日本からの移民が形成したスラム街が流行の中心地となった。三人の医師がペストに立ち向かい、ハワイ全土に及ぶ絶対的権限を与えられて大胆な公衆衛生政策を遂行していった。
三人の医師はきわめて優秀だった。当時最先端の細菌学を活用しただけでなく、過熱する世論を抑制し、現場の声に耳を傾け、何よりもハワイの伝統文化に対する深い敬意を持っていた。
しかし三人が汚染された建物の焼き払いという策を打ったとき、火は思いがけない突風のため燃え広がり、チャイナタウンのほぼ全域が焼け落ちた。
これは、一方では公衆衛生政策の勝利の歴史である。しかし同時に、人種差別と帝国主義に強く影響された悲劇の記録でもある。
当時の新聞や議事録、オーラルヒストリーなどの博捜に基づく圧倒的ディテールによって、歴史・政治的背景と複雑に絡み合う思惑と理想と偶然が再生される。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
102
アメリカに併合された直後のハワイでペスト禍があったとは知らなかったが、人種差別が当然の時代とはいえチャイナタウンを焼き払えと白人が主張していたとは。ペスト流行時の中世欧州でユダヤ人が大量虐殺されたように、蔑視する異民族集団に疫病の責任を負わせる思想は大衆には簡単に感染する。それでも近代科学の発展期だけに、最新医学を学んだ医師たちが理性的に治療を続ける姿は人への信頼を取り戻せる気がする。新型コロナ下の民主国家では許されないが、中国は厳格なロックダウンで事実上踏襲している。果たして未来はどちらに味方するのか。2022/10/21
榊原 香織
58
当時、ペストが発生したのがチャイナタウンだったので、民族差別や中国本土の政治に対する態度(清朝派か革命派か)など、余計にごちゃごちゃ。そして火で浄化しようとして燃え移ってホノルル大火となる・・訳者は医学専門、後書きにも書いてたけど、ちょっと誤訳らしきものが気になったな。2023/02/07
おっとー
9
まるでコロナ対応の起源を読んでいるかのよう。アメリカに併合されたのと同時期にハワイではペストが発生し、3名の医師がペスト対策を任され、彼らを中心に感染者や濃厚接触者の隔離、病原菌やワクチンの研究、そして感染者のいた建物の焼き払いまでもが行われた。この徹底した焼き払いが進められる中、あるとき火の制御に失敗し、街のシンボルであったカウマカピリ教会やチャイナタウンが炎上する事態に至る。病気を広げないことだけが考えられた結果、人々は住処を奪われ、資産を奪われ、仕事を奪われた。2023/07/13
朝ですよね
5
1900年のチャイナタウン大規模火災は人為的な放火ではなかった。しかし、当時の社会に人種差別的な考えがあったのは事実で、ハワイの政治体制もそのようになっていた。予防的に燃やしてしまう提案もされていた。公衆衛生のために住民を収容所に送り財産を燃やすことが求められ、その政策は世界中から称賛された。また、王政と合衆国併合の隙間という事情もあるだろうが、政治家は予算と権限を保健委員会に丸投げし、3名の医師は独裁的な権力を持った。現代の光景を彷彿させる箇所も多く、史実から多くの教訓を得られるだろう。2022/11/23
tsubasa
3
ペスト禍@ホノルルの話。訳はとても読みづらくてしんどいけど、話の流れ自体は読みやすい。不勉強で全く知らなかったけど、120年前にそういうことがあったか、と興味深く読んだ。 日本(人)も関係した事件で、その記憶はこのコロナ禍にも活かされていいと思うけれど、いや、知らなかったなあ。2022/08/06