ちくま新書<br> コロナ対策禍の国と自治体 ――災害行政の迷走と閉塞

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ちくま新書
コロナ対策禍の国と自治体 ――災害行政の迷走と閉塞

  • 著者名:金井利之【著】
  • 価格 ¥880(本体¥800)
  • 筑摩書房(2021/05発売)
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  • ISBN:9784480074034

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内容説明

日本の行政は、突発事態への臨機応変な対応を得意としていない。そこへ想定外の新型コロナウイルスの世界的流行がやってきた。行政は不具合に陥り、国対自治体の構図に象徴される非難応酬が起きている。内閣に権力を集中させて危機管理に当たるかに見せて、それは空想の「災害行政組織」と迷走の「災害行政対応」として閉塞に陥る。民衆にとって行政のコロナ対策自体が禍いとなっている苛政の現状を分析し、現状の権力集中の願望に代わる、地道な災害行政のあるべき姿を考える。

目次

はじめに
序章 コロナ元年
疫病禍と行政
(1)新型コロナウイルス感染症(COVID-19) (2)厄災禍と災害行政
災害行政の分析枠組
(1)災害復興と復興災害 (2)コロナ禍対策とコロナ対策禍 (3)コロナ対策禍の無限ループ
一般的含意
第1章 災害対策と自治体
1 災害行政組織の特徴
災害行政組織の必要性
防災会議・災害対策本部方式
(1)災害行政における乖離 (2)伊勢湾台風と災害対策基本法 (3)趣旨
緊急本部方式──権力集中への指向性
(1)内閣機能強化論 (2)重要政策会議と中央防災会議 (3)災害緊急事態 (4)緊急事態布告=対策本部=非常時集権方式
災害復興官庁論
(1)帝都復興院 (2)戦災復興院 (3)阪神・淡路復興対策本部 (4)復興庁 (5)大規模災害復興法
組織転用の限界・司令塔の限界
2 災害行政対応の特徴
空想的災害行政対応
(1)必然の失敗 (2)「完璧」な対応
法令への逃避
(1)法的措置の膨張主義 (2)「泥縄」という対処方針
財源への逃避
(1)財政措置の膨張主義 (2)経済的限界
学知への逃避
(1)専門性と非難回避 (2)専門性の限界 (3)権力集中と実務的専門性の軽視
災害行政対応の方向性
(1)計画化 (2)冗長化 (3)人脈化 (4)標準化
第2章 コロナ対策禍と自治体
1 追従・忖度から放縦へ
権力集中と自治体
国の初動対応
(1)災害としての疫病 (2)「新感染症」からの逃避 (3)改正特措法の適用 (4)緊急事態宣言の要件 (5)コロナ対策における法令への逃避
権力集中から権力迷走へ
(1)自治体の初動忖度 (2)潮目の変化 (3)非常時集権方式の自壊
コロナ対策禍と放縦
(1)空想的災害行政対応の自縛 (2)演技系の諸特徴 (3)我欲系の諸特徴 (4)愚昧系の諸特徴
無規律型社会か分権型社会か
2 排除と鎮静
排除と矯正と流行
排除の政策枠組
(1)感染症対策と排除 (2)感染症法という政策枠組 (3)排除への自戒とその限界
排除の実行
(1)国外からの排除 (2)国内での排除 (3)排除の限界──医療崩壊対策と〈排除の排除〉による排除の表面的維持
鎮静の実行
(1)鎮静の登場──接触自粛措置 (2)鎮静の限界
3 折衷と流行
鎮静の限界
(1)投網型鎮静の実質的不公平性 (2)排除と鎮静の折衷
排除の変容
(1)集団免疫戦略 (2)地域間排除 (3)排除の拡張
排除・鎮静・流行の振り子
4 非難応酬
対策の決め手のなさ
非難応酬の構造
(1)弁明の方策 (2)権力集中による災害行政対応の限界 (3)他者非難 (4)非難応酬の意義
自治体組織内部への非難
(1)自治体内部の上下関係構造 (2)不満の捌け口 (3)感染源としての自治体職員 (4)安泰者としての自治体職員 (5)職員叩きによる自滅
自治体組織外部への非難
(1)民衆非難への誘因 (2)他自治体非難への誘因 (3)国非難への誘因
首長の暴走への誘因のなかで
第3章 コロナ対策の閉塞
1 三すくみの閉塞──蔓延防止・医療提供・生活経済
政策構造による閉塞
特措法の政策構造
(1)特措法の目的手段構造 (2)「緊急事態」を生み出した第一次緊急事態宣言 (3)特措法の生活経済安定措置 (4)特措法の生活経済安定措置の空振り (5)実際の生活経済安定措置
感染症法の政策構造
(1)感染症法と特措法 (2)感染症法の措置 (3)感染症法の措置の空振り
為政者のできること
2 玉突きの閉塞
災害行政対応と組織間連鎖
学校・家庭・児童ケア施設の玉突き
(1)安倍首相の一斉休校要請 (2)小中高校の不要不急性 (3)児童ケア施設としての学校 (4)教育施設という建前の迷走 (5)「不要不急」の難しさ
医療施設と介護施設との玉突き
(1)医療体制の逼迫 (2)医療崩壊と介護崩壊の玉突き (3)医療・介護提供体制の構造 (4)冗長性と災害行政対応
3 仮想対応の閉塞
仮想上の災害行政対応
情報化またはデジタル化(?)への転嫁
(1)COVID-19対策と情報化 (2)厄災禍とショック・ドクトリン (3)情報化の限界 (4)ひも付け化とデジタル化?
法令への逃避・再論
(1)法的措置への力学 (2)緊急事態宣言の発出 (3)二〇二一年二月特措法・感染症法改正 (4)法的措置の仮想性
仮想対応の果て
(1)防止重点措置 (2)命令・過料
4 生活・経済・財政の閉塞
災害財政と日常性
コロナ対策禍としての赤字財政
(1)財政への逃避 (2)潜在的な地方財政危機
ショック・ドクトリン的な財政出動
(1)二〇二一年度地方財政対策の概要 (2)「ポスト・コロナ」の「新しくて古い日常」
生活措置の空洞化
(1)就労第一社会の(悪い意味での)「強靱」性 (2)就労第一社会における経済優先 (3)グローバル資本主義・市場経済の閉塞
5 公表と差別の閉塞
差別防止という行政課題
(1)法的理念 (2)差別対策の効力限界
情報収集と情報提供
(1)法的基準 (2)公表と行政
COVID-19対策における感染状況の公表
(1)国の方針 (2)公表への力学 (3)公表基準
コロナ対策禍としての差別・偏見
(1)公表基準での対処の限界 (2)感染症対策と差別・偏見防止の両立 (3)国の対応
差別・偏見対策の閉塞
(1)忌避による感染症対策 (2)公表範囲の限定 (3)反差別の具体的行動
終章 コロナ三年
長期的な社会・経済保障
複雑性
真に「新しい日常」に向けて
(1)包摂への指向性 (2)無力への指向性 (3)社会への指向性 (4)実務への指向性
あとがき

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

壱萬弐仟縁

55
本書は出版されて半年だが、多くの国民に読まれてよい。というのは、庶民、生活経済、というのが私には浮き彫りにされたからだ。コロナ禍で登校できず、自宅で自習を余儀なくされた子供たちは、家庭環境で学習効果が違ってくるだろう。自宅学習の文化資本(198頁)は、その世帯の経済力ではなく、ないのならば、文化政策が必要である。文化支援としての教育支援策、法制度と合わせて必要だ。今は、オミクロン株への早急な対応が求められる。まだコロナ対策は当面続く。第6波対策。厚労省は電話繋がらない。これを何とかしてほしいものだ。2021/12/01

Mc6ρ助

16
コロナ対策禍というタイトルで本の内容が知れる好著。『COVID - 19対策は、結局、保健福祉介護当局、保健所、・・病院・医療従事者など、実務家が粛々と行うしかない。また、経済・社会・生活を成り立たせるのも、必須従事者の実務に負っている。・・何が不要不急かを行政が判断することは、過剰な権力行使であって、・・為政者や非現場型専門家は、・・充分な医療介護供給体制の整備や、仕事をしないで暮らせる生活保障の整備である。・・マスメディアなどを通じて行動変容と称して危機を煽ることではない・・(p308)』2021/11/11

awe

7
「金井節」で知られる行政学者金井利之の最新作。「コロナ対策禍」というのは、国や行政のコロナ対応の失敗がもたらしている禍のこと。国や自治体の無策・奇策ぶりは目に余るばかりだが、なぜそうしたことが起こるのかを行政学的な視点からシニカルに分析したのが本書。あまりにシニカル過ぎて苦笑した部分もあったが、あながち間違いでもないよなとも思う内容ばかり。これは巷間言われることだが、日本の行政組織は平時のことを想定して動いているため、非常時の動きが鈍い。そこで、集権的なリーダーシップの発揮、権力集中への指向性が見られるが2021/06/19

青雲空

7
新型コロナではなく、新型コロナ対策の解説書。この間の行政の苦悩と欺瞞を幅広く指摘している。 アベノマスクだけではない。政治家は思い付きで、実にくだらないことをぶち上げ、その否定に貴重な時間と資源を、我々は浪費させられている。 去年の今頃、9月入学論があったこと覚えていますか? 2021/06/11

むむむ

3
具体的な事例をもとに、細かな分析がなされる。ここまで注が充実する新書もなかなかないだろう。 結局、唯一の解はないのだが、拙速な判断に陥らないよう、ゆとりある設計って大事だなと思わされた。 また、有識者と呼ばれる人たちも、いかにして囲い込まれるかということを考える人ばかりになると、忖度祭りが生じるので、アカデミックの立ち位置も改めるべき点がある。 2022/03/20

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