内容説明
原生林で5歳のASD児が行方不明になった。1週間後無事に保護されるが「クマさんが助けてくれた」と語るのみで全容を把握できない。バッシングに遭う母のため義弟が懸命に調査し、4人の男女と一緒にいたことは判明するが空白の時間は完全に埋まらない。森での邂逅が導く未来とは。希望と再生に溢れた荻原ワールド真骨頂。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
302
荻原 浩は、新作をコンスタントに読んでいるさいたま地元作家です。ファンタジー的な作品かと思いきや、予想外の展開で面白く、感心しました。最期にもう少しサプライズがあったら、尚良かった気がしますが、今年のBEST20候補です。 https://www.shinchosha.co.jp/book/468907/2024/06/17
hiace9000
210
荻原さんの持ち味と作家力が遺憾なく発揮された胸のすく読後感。おもしろい小説とはまさにこういう作品だ。小樹海と呼ばれる「神森」で発達に特性のある5歳児・真人が行方不明に。生存を危ぶまれた1週間後、大きな衰弱もなく無事救助される。誰が彼を助けていたのか…。わずかな痕跡を元に空白の1週間を追っていく。現在と過去を交互に描く構成で一つ目の謎、誰と接触したかは早々に明かされる。その一人一人の人間模様の”掴み”もさることながら、行方不明事案に対するネット中傷犯との対決も読みどころ。高いリーダビリティで一気読みは必至!2024/09/27
のぶ
207
荻原さんの本は20年以上読んでいて、ほとんど外れがないので安心して手に取ったが、本書も楽しむ事ができた。行方不明になっていた5歳の真人が森で発見される場面から話は始まる。真人は自閉症スペクトラム障害と診断されており、同世代のこどもと同じようなコミュニケーションを取ることも難しい。1週間も森の中を彷徨っていたにしては、真人は衰弱していなかった。誰かが彼を助けてくれたのだろうか?そんな流れで物語は展開していくが、ちょっと間違うと重苦しい話になってしまうところ、ラストまでユーモアを含んで面白い作品だった。2024/06/16
いつでも母さん
206
読了後はこのタイトルも装画もじんわりと沁みる。5歳のASD児・真人は母と二人暮らし。それだけで多少は母親の感情や日々の暮らしを想像出来る私だった。その真人が森で行方不明になった。無事に保護されるまでの一週間を真人の叔父が追いかける物語。バッシングされる母・岬の覚悟が好きだ。こんなに上手く行く訳無い・・そうじゃない。そう言うことじゃない。次々に出てくる人間との関わりに真人の成長があって、それが自分の言葉で放たれる時の何とも言えない感動にほろっとした。『笑顔の国の王子様』ガンバレ~!そして、ありがとう。2024/07/04
ちょろこ
159
涙でにっこりの一冊。ASDの5歳児、真人が森で行方不明になったことから始まる物語。無事保護されたものの一週間の間に何があったのか。憤りや不穏な空気さえも味方にし空白の時間を読ませる展開は荻原さんらしい世界観がいい。真人を中心に変化し交差していく訳あり男女の心と人間模様を描く傍らで社会問題の一つにメスを入れる、その見せ方は胸に響き爽快感さえも覚えた。小さな温もりもいい。あの"森の住人"にさえも。与えるだけではない、もらう温もりの愛おしさが泉のように湧き出し涙へ。と同時に満ち溢れる愛ににっこりの最高の読後感。2024/07/07