内容説明
「女が書いたものなんざ」――日本の文壇にまだ女性の書き手が少なかった明治時代。小説家になることを夢見る十七歳の宮島冬子は、当代一の文学者・尾形柳後雄のもとで女中をしながら執筆に励んでいた。同じ志を持つ男弟子たちが次々と世に出ていく一方、冬子は家事に追われてなかなか筆が進まない。焦りを感じる冬子はある日、尾形からおぞましい誘いを受けて……。女性の直面する社会的な困難を克明に描き、己の道を歩き続ける強さに胸を打たれる。現代を生きる私達に寄り添う、勇気と希望の湧き立つ傑作長編。
感想・レビュー
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akiᵕ̈*
23
時は明治。文壇に身を置く人たちの生き様、苦悩を描く。女性が見下されていた時代、大家先生の弟子入りにはなれず、女中をしながら自らも小説家を夢見る冬子。思うようにいかない中、先生に"お前にしかできない事“としてあまりに悍ましいことを要求されるが、書いた小説を出版社に渡すことを条件に受け入れていく。その後妊娠が分かり、弟子の1人である九鬼から提案された〈共謀〉を秘め結婚し、それぞれが己の思う通りに生き、すれ違いながらも鎧を纏ったお互いの心の内を見つめていく。冬子の強かさには、ただただ唸る。2024/04/17