内容説明
不条理な暴力に私たちはどう抗えるのか――
【第53回大宅賞受賞作】
1972年11月、革マル派が支配していた早稲田大学文学部構内で、一人の学生が虐殺された。後に「川口大三郎君事件」と呼ばれるこの悲劇をきっかけに、一般学生は自由を求めて一斉に蜂起。しかし事態は思わぬ方向へと転がり、学外にも更なる暴力が吹き荒れて――50年前、「理不尽な暴力」に直面した著者が記した魂と悔恨のルポ。
1972年、キャンパスでいったい何が?
思想家・内田樹氏 推薦!
「同時代を生きた人間として樋田さんがこの記録を残してくれたことに深く感謝したい。
若い人に読んで欲しいと思う。
人間がどれほど暴力的になれるのかは知っておいた方がいい」
【本作原案映画、公開決定!】
『ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ』
(2024年5月25日よりユーロスペース他で公開)
※この電子書籍は2021年11月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
九曜紋
9
自分が入学するわずか7年前、母校がこんな混乱の極みにあったことを不覚にも知らなかった。学問の府であるはずの大学が戦場であることの不条理。暴力に対して非暴力・不服従を理想としながらも現実とは乖離する無念さ。私は充実した大学生活を送ることができたが、学生気質が変化し、政治の季節が過ぎ、大学のレジャーランド化等、ただ時代の幸運に恵まれただけなのかもしれない。在学中も革マル派の影響力は存在したし、与り知らぬところで軋轢はあったのだろう。校舎や諸施設が建て替わり当時を回顧するのも難しくなった。時代の流れを感じる。2024/04/27
浅香山三郎
7
革マル派がかつて早稲田大学を拠点としてゐたことは知つてゐたが、川口大三郎さんのリンチ殺人事件と、その後の対革マル蜂起のことはよく知らなかつた。排他的で異論に不寛容な新左翼セクトによる大学支配が、殺人を正当化してゆく怖さと、大学当局の保身的な立ち位置など、その時代ならではの事情と、著者のその後のキャリアでの、普遍的な組織一般の体質の問題などにも紙幅を割く。学生側・革マル側双方のかつての当事者に取材し、半世紀後に本書をまとめた著者の執念を感じる。当事者のその後に触れた「文庫版のためのあとがき」も興味深い。2024/10/22
Rieko Ito
3
著者は新聞記者だっただけに、文章は読みやすく明晰(とはいえ予備知識なしでは理解不能だろうが)。しかし当時の情勢にかなり深くかかわる立ち位置にあったにもかかわらず、新聞記者的な他人事感が全般に漂ってもいる。当時の革マル派の学生組織幹部などにもインタビューしているが、彼らにもやはり他人事感がある。誰もが(著者自身も)あの世まで持って行く嘘や隠しごとや言えない思いを抱えていそうで、その辺も含めて興味深い内容になっている。 2024/09/01
瓜月(武部伸一)
3
2021年出版の単行本版は刊行後直ぐ読了。著者の「文庫版のためのあとがき」を読むため購入。後書きは、1972年、早大での革マル派の暴力支配に対し闘った学生たちの「それぞれの生き方」。著者が本書出版のため連絡を取ったかつての仲間の内、15人のその後の人生を実名で記している。その軌跡は様々だが、どの人の生き方もとても良い。一方で当時の革マル派活動家は、今、自分の人生を堂々と語ることが出来るのか。どちらに義があったのかは明らかだろう。しかし帯の「内田樹氏推薦」は無い。彼の東大革マル時代の反省は未だに浅いと思う。2024/07/07
TOMTOM
3
自分が生まれるより前、1972年からの数年の早稲田での闘争。革マル派、中核派、そのほかさまざまなセクトがあり、生々しい暴力的な日々が伝わってくる。著者は非暴力と寛容を行動原理としていたが、構内での暴力が増していく中で非暴力を貫けない人たちも現れてくる。読み終わって感じたのは、その数年だけを切り取っているため、彼らの闘いの目的がよくわからない。おそらく安保闘争を機に活性化した活動家たちが分派していったのはわかるが、早稲田の自治を巡っての闘いとはあまり感じられなかった。対談もかみ合わなさにもどかしさを感じた。2024/04/16