内容説明
先駆的に化学物質による環境汚染を訴え、今に続く環境学の嚆矢ともなった『沈黙の春』の著者であり科学者であるレイチェル・カーソン。そのカーソンの最後に遺した未完の作品が『センス・オブ・ワンダー』だ。本書は独立研究者・森田真生による新訳と、「その続き」として森田が描く「僕たちの『センス・オブ・ワンダー』」で構成する。カーソンが残した問いかけに応答しつつ、70年後の今を生きる森田の問題意識に基づいた、新しい読み解き、新しい人間像の模索を行う。
目次
センス・オブ・ワンダー レイチェル・カーソン 文 森田真生 訳/僕たちの「センス・オブ・ワンダー」 森田真生/結 僕たちの「センス・オブ・ワンダー」へ/あとがき/参考文献
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
306
レイチェル・カーソン『センス・オブ・ワンダー』の新訳かと思っていたが、本書はその上にさらに訳者の森田真生によるオマージュ「僕たちの『センス・オブ・ワンダー』」が付け加えられている。カーソンのそれがメイン州であったものが、ここでは京都の東山の麓である。訳出のかたわら、森田は自身の子どもたち(長男=4歳~7歳、次男=1歳~4歳)とともに、この家の庭や菜園にやってくる虫たちやカエル、あるいは季節ごとの鳥などを通じて自然のサイクルを感じ、数々のワンダーを得る。長男が初めてモリアオガエルを捕まえた時、また初めて⇒2024/07/10
クプクプ
74
私はレイチェル・カーソンは、昔の翻訳で「沈黙の春」も「センス・オブ・ワンダー」も、既に読んでいましたが、森田真生さんの新訳も、新しい世代の言葉で成功している、と思いました。また、この作品はカーソンの文章が短いのが特徴で今回は森田真生さんのエッセイが載っていました。二人のお子さんがいるようなので、著者のお父さんの顔を見ることが出来てよかったです。京都に住み、お子さんと一緒に庭に訪れたモリアオガエルを観察するシーンも印象的でした。また、月の引力が地球の海の干満に影響を及ぼすことも初めて知りました。(つづく)2024/12/23
@nk
46
著者である Rachel Carson の死後(翌年の1965年)、彼女の友人たちにより世に出された『The Sense of Wonder』。日本では上遠恵子訳が1990年代以降、今も多く読まれている。そして2020年代、感染症が猛威を振るうなか、上遠恵子訳は新潮社にて文庫化され、筑摩書房では新訳が出されることになる。その新訳が今年3月に発行された本書であり、Rachel Carson の未完の想いを訳者の森田真生氏が書き継いだものも、大きく併録されていた。森田氏の著書を以前に読んでいたこともあり、⇒2024/05/29
井月 奎(いづき けい)
42
執筆時、レイチェル・カーソンは癌に蝕まれており、人生の終焉に向かっていました。命の源である海で死を抱くレイチェルはこれから人生がはじまる甥のロジャーと散策します。そこにはほとんど永遠に続くであろう波と、わずかな時間を生きる小さな蟹がいて、二人は夢中で蟹を探します。時間の流れの違う者たちが同じところに存在している不思議。それらが邂逅する奇跡。その不思議と奇跡を慈しみ、命の輝きを見出すこと、それは関係と命の永遠を意味すると思います。そしてその関係と意味を思うことこそが「センス・オブ・ワンダー」なのです。2024/08/07
コニコ@共楽
19
前から読みたかった『センス・オブ・ワンダー』の新訳に加えて続きのように書き継いだ森田氏のエッセーを読んでみた。『センス~』の著者であるレーチェル・カールソンは、自然に囲まれた海や夜空を眺めながら大甥のロジャーが囁いたこんな言葉を記している。”I’m glad we came."子どもたちが自分の目で見て身体で感じて体験していく様が目に浮かぶ。そのレーチェルの文に呼応するように森田氏は自分の子どもたちとの瑞々しい自然や虫、植物との体験を綴っている。驚きと不思議に開かれた感受性、大人こそ思い出したいセンスだ。2025/02/13