内容説明
「安徳帝は入水せず、三種の神器の剣とともに土佐山中に消えた」。伝承を信じて、後鳥羽上皇のため神剣探索の旅に出た忠臣・有綱。苦難の果てに帝一行が住み着いたという集落を発見するが、そこでは思いも寄らない運命が待ち構えていた。一人の若者の冒険と恋を通じて、日本史最大の謎に挑んだ著者新境地の長編歴史ロマン。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
パトラッシュ
160
航空機上から四国を見下ろすと、険しい深山幽谷の地なのがわかる。人の足でしか動けない時代には、平家の落人伝説が各地に残るのも当然だろう。承久の変に敗れ隠岐に流される後鳥羽院のため壇ノ浦に没したとされた天叢雲剣を求め四国の山々をさまよう男女3人の旅路は、様々な人の運命を巻き込み狂わせながら、稀代の名刀工と謳われた菊一文字則宗誕生の秘話へとつながっていく。神剣とはモノではなく文字通り神の遣わした剣であり、どこにあろうとも国を守る存在だと誰もが悟るのだ。欲望の渦巻く俗世から超越した、本当の神とは何かを問いかける。2024/06/23
ちょろこ
126
浪漫がたまらない一冊。壇ノ浦に沈んだとされる三種の神器の一つである神剣を三人トリオが探すストーリー。こういう、実は安徳天皇も神剣も無事だった?なんていうテーマは文句なしにそそられ、たちまち浪漫一色の世界へ連れ出されるのがたまらない。もちろん、前途多難の神剣探し。行く先々に待ち受ける困難にドキドキワクワクしながら、有綱、伊織、奈岐の三人を見守る気分。もしや、これが?この人が?まさか、この人も⁇という数々の見せ方も良かった。誰もの心の行き着く場所を綺麗にまとめあげたのも巧い。幻想的なラストもお気に入り、満足。2024/08/01
さつき
70
とても好みの作品でした。読み終えてからも、様々な場面を読み返して余韻に浸ってます。舞台となるのは承久の乱の後の時代。西国武士の次男小楯有綱は、流人となった院に仕える謎の女性から使者になるよう密命を下される。太刀と扇のみを渡されて、どこに行き何をしたら良いのかは何も明かされず。有綱と共に旅立つ刀工の伊織、神懸かりの少女奈岐、3人の道中は危険と隣り合わせ。いったい物語の着地点はどこにあるのか?一緒に迷いつつ歩いている感覚になりました。若さに溢れた明るさと切実な祈りに満ちた結末も素晴らしいです。2025/01/16
がらくたどん
63
時は壇ノ浦から35年ほど。古来より天皇の証と言われる三種の神器のうち天叢雲剣だけが安徳帝と海中に沈んだまま行方不明で、後鳥羽上皇の心中には隠岐配流が決定した今もまだ「神器を欠いた帝」というコンプレックスが燻っていた。上皇の愛妾亀菊の謎指令に導かれ、熱血武士・刀鍛冶・憑坐童の凸凹パーティーが縁の地を巡る「壇ノ浦あの人は今も?伝説」聖地巡礼RPG♪憑坐ちゃんの渾身憑依パワーでみんな大好き貴種流離譚を軽くなり過ぎず切々と描いて読み心地はとても良い♪「象徴」が欲しいオトナのために人生を捧げた子どもの姿が胸を衝く。2024/09/23
さぜん
61
初読み作家だったが、しっかりした文体と冒険ファンタジー小説として面白く読了。「安徳帝は入水せず、三種の神器の剣とともに土佐山中に消えた」という伝承を辿り、神剣探索の旅に出た忠臣・有綱、刀匠・伊織、幼き巫女・奈岐。有綱の恋と冒険を軸に様々な苦難を経て辿り着いたのは。平家滅亡の史実から、神剣の持つ意味、日本の帝のあるべき姿など様々な視点で歴史を捉え、たらればの世界を堪能した。2024/11/16