内容説明
平安の都は荒れ果てていた。親に名前もつけてもらえず、一生消えぬ傷痕を背負ったイチにとって、盗みも人を殺(あや)めるのも生き延びる手段だった。そこに聞える空也上人の念仏。反発しながらも上人に従うイチは、ある時瀕死の遊女(あそびめ)を救う。初めて感じる人のぬくもり、娘との平穏な時。だがそこに現れたのは……。悪夢、慟哭、人生の再生。地べたに生きる人々を描く著者の傑作。京都文学賞受賞作。(解説・細谷正充)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Tadashi Tanohata
17
あの六波羅蜜寺の空也上人に出会いクソ以下の人生から這い上がるイチの物語。平安時代の羅城門界隈は貧困と疫病に塗れ、洛中に年寄りとガキのむくろが折り重なり、死ぬ瞬間を待って着ぐるみ剥がされる。そんな中、イチが「なむあみだぶつ」と這い上がる姿に読む手が震える。日本人もこんな経験をしたのかと。皆さまどうぞ「空也上人」像を再度ご確認を。合掌。 2025/03/04
新田新一
15
盗賊のイチは仲間と共に捨て鉢な生活を送っています。生きるために盗みを働き、人を殺します。ふとしたきっかけで、遊女と知り合い、共に生活するようになりました。イチは自分が彼女の父と母を買って殺したことに気づき、慄然とします。布教を続けていた空也上人と出会って、イチの生活は変わり始めたのですが……。荒廃した世で地を這うようにして生きる人々の姿が印象的な長編。暗い長編ですが、結末でわずかな救いを感じました。「欲しがるな、与え続けよ」という空也の教えは現代で十分通用すると思い、心に刻みました。2024/04/12
シンミチ
2
なんと苦しい話か。読み進めるのが辛かったが、ページを捲る手は止まらなかった。"平安時代"といえば都での貴族達の華やかな生活を真っ先に思い浮かべるが、そんなものはごく一部で、大半は貧しく、疫病が蔓延し治安も最悪な状況だったんだなぁ、京の都という場所は。イチという悪党が上人やキクと出会い、誰かのために生きようとしていく姿が書かれている。最悪な場所でも、己の心の在り方によっては、変われるのではないかと思う一方、上人の言葉は机上の空論にも思えたし、でもやっぱり諦めたら終わりだな、とも思わせられた。 2024/06/13
読書家さん#Y
1
私の好きな羅生門と同じ時代背景の作品でないかと推察される。羅生門より暗澹たる気持ちになり、救いがないと感じた。だがそれがむしろ良い。私も主人公と同じような生まれに恵まれなかった人間なので、これこそが人生だよなと共感できた。しかし私は時代に恵まれたので、盗みや殺しをせずとも生きることができた。時代が違えば私は主人公のような人生を歩むことになっただろうし、それは私だけでなく、誰もがその可能性を持っていると思う。あとがきの最後の方に書いてあった言葉が自分の中にすとんと落ちてきた。2024/04/21
さく
1
「与えるのや、欲しがるのやないぞ」2024/04/03