内容説明
失踪した男の調査を依頼された興信所員は、追跡を進めるうちに、手がかりとなるものを次々と失い、大都会という他人だけの砂漠の中で次第に自分を見失っていく。追う者が、追われる者となり……。おのれの地図を焼き捨てて、他人しかいない砂漠の中に歩き出す以外には、もはやどんな出発もありえない、現代の都会人の孤独と不安を鮮明に描いて、読者を強烈な不安に誘う傑作書下ろし長編小説。(解説・ドナルド・キーン)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
514
初読みは『砂の女』と決めていたのに、手に入ったこちらから。主人公は探偵として、行方不明になった夫を探す依頼人のもとを訪ねるところから物語は始まる。おそらく契約期限の1週間かそこいらで完結するのだが、そこに込められた描写が圧巻。読み終わって依頼人の住む部屋の「レモン色のカーテン」がなぜか印象に残る。派手さはないが、なぜかクセになる作風だ。2023/03/25
ヴェネツィア
340
読み始めて早々に誰もがカフカを連想するだろう。まさに『城』の世界ではないかと。さらに読み進めるうちに、サミュエル・ベケットを想起するかもしれない。また、その徒労ゆえにカミュの『シーシュポスの神話』を、そして終盤のカフェのシーンではロブ=グリエの『嫉妬』などにも思いが及ぶ。これは、安倍公房がそうした作品に影響を受けたというよりも、むしろ彼らが同じ世紀を生きた作家だったことを物語る。社会や、対人の、さらには自己自身からさえも疎外された存在である「ぼく」。そして、追う者が追われる者であるように、「ぼく」は私だ。2015/03/04
遥かなる想い
123
失踪者を追跡しているうちに、自分を見失っていく興信所の男。社会における自分の立ち位置・存在の意味を問うという意味では安部公房のテーマを 具現化した作品。「大都会の砂漠」という言葉がよく似合う。2010/06/20
コットン
102
再読。昭和42年の刊行なので貨幣価値や言葉の違和感があるが、調査員が失踪人を探すというサスペンスタッチで展開されるので当時としては極上のスピード感があった展開だと思う。依頼人や依頼人の弟に対する調査員の思考が真剣なようでどこかユーモラスでやはり面白い!。人間が個として生活しているのではなく他者との関係性で生活が見えてくる事を逆説的に語っていると感じた。2014/06/19
Vakira
83
君の失踪。失踪のパターンは大きく3つ。①事件に巻込まれた②拉致、誘拐③計画的失踪。①②は他責なのでしょうがないとすると問題は③だ。③の場合、理由も告げず、積極的な失踪だ。急に君が信じられなくなる。君はもう今までとは違う人間となってしまう。僕は動機も知らぬまま。愛人が出来た?何が不満であったのか?自分の否を考えてしまう。もう元には戻れない。こうして僕と君の間に壊す事の出来ない壁が建てられる。もう君が見つかるかなんてどうでもいい。知りたいのは君が失踪した理由だ。もしや?君は「砂の女」になってしまったのか?2021/09/12
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