内容説明
ソ連軍が侵攻し、国府・八路軍が跳梁する敗戦前夜の満州。敵か味方か、国籍さえも判然とせぬ男とともに、久木久三は南をめざす。氷雪に閉ざされた満州からの逃走は困難を極めた。日本という故郷から根を断ち切られ、抗いがたい政治の渦に巻き込まれた人間にとっての、“自由”とは何なのか? 牧歌的神話は地に堕ち、峻厳たる現実が裸形の姿を顕現する。人間の生の尊厳を描ききった傑作長編。(解説・磯田光一)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
384
私たちが持っている安部公房の小説世界のイメージとはかなり違っている。すなわち、この作品は徹頭徹尾リアリズムの手法で語られているのである。幼少年期を奉天で過ごした安部公房にとって、それは一度は確認する必要のあった自らのアイデンティティの根幹だったのだろう。ただし、小説は自伝的なものではなくフィクションでありながら、あり得たかもしれない安部である。生まれ育った故郷、巴哈林の喪失、厳寒と飢餓の中での瀋陽への脱出行、そして故郷である日本への帰郷。しかし、そこは久三(小説の語り手)にとって故郷たり得たのか。⇒2024/06/22
ehirano1
109
「・・・なんといっても一番危険なのが境界線・・こういう御時世には、どうしても境界線の幅が広がってしまう・・・」に、人間はある二項対立の境界線を生きているものなんだなぁ、と。そしてその境界線は常に変動する、とそんなことを思いました。2025/02/24
Willie the Wildcat
73
国家・他者の保証、自己証明など、物質的なアイデンティティーの喪失。唯一の心の拠り所は「故郷」。内戦や野生動物などの外的、そして飢え・渇き・病などの内的圧力の中、”獣”となり荒野を彷徨い、生き抜く。いや、獣になりきれないが故の感情が痛みであり救い。瀋陽で全てを失い高を頭に浮かべた時の悲しみ、そして”気持ちの良さ”が印象的。”監禁”状態・・・、荒野が続くも、1人1人の本能が求める安住地。久三の冷静さに、心理的解放と共に人の心底に潜む残酷さを感じざるを得ない。2017/06/12
こばまり
72
故米原万里氏の言葉を借りれば「打ちのめされるようなすごい本」。嗚呼、未だに私は文学という名の大海の波打ち際で遊ぶ童に過ぎない。2019/01/21
Gotoran
64
敗戦前夜の満州、ソ連軍が侵攻し国府・八路軍が跳梁するという状況下。母の看病で逃げ遅れ、取り残された主人公の少年久三は、(満州で生まれ育ち)まだ見ぬ祖国日本を目指して壮絶な長い道程を逃亡していく。その過程で主人公と道連れの男は、もがき苦しみ、けものと化していく様が胸に突き刺さってくる。絶望と息詰まるほどの閉塞感を漂わせて物語は幕を閉じる。明るさ、楽しさ、更には希望さえもない。このような安部初期作品を終戦の本日、読了した。2021/08/15
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