内容説明
熊本にある本屋兼喫茶店、橙書店の店主が描く本屋と「お客さん」の物語。石牟礼道子さんが逝った日「ただただ悼みたい」と訪れた人。“書くこと”を焚きつけた渡辺京二さんの言葉。縁あって催した“村上春樹朗読会”の夜。雑誌『アルテリ』に寄稿するハンセン病患者「関さん」と交わした握手――。文庫版のための書き下ろし・単行本未収録エッセイを増補する。
目次
1 まちの余白/路地裏で/とんちさん/再会/読み返す/金木犀/緑の椅子/来し方の道を歩く/2 雨降りに本屋で/手紙はいいよ/常連さん/披露宴/Aさんのこと/ママ/おまけ/されく/3 同じ月を見上げて/巡り合わせ/バス停/透明なお客さん/遠いけど近くにいるひと/泣く女たち/常宿/とくとくとく/秘密の夜/街並み/そらと満月/4 切手のない便り/小さきものたち/きりん/またたく/植木スイカと手紙/シールとドーナツ棒/握手/ヤッホー/ゆうひとあさひ/いつもの風景/5 文庫版のために/旅の仲間/ハンさん/再訪/あとがき/文庫版あとがき/解説 滝口悠生
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
taraimo
25
著名人との人脈を覗かせ、さまざなイベントが開かれながら、常連客のコミュニティの場としての役割りは揺るがない雰囲気のお店。少数派や弱者をおもんばかり、個々の在り方を否定しない店主のスタンスがいいですね。窓辺のモミジバフウが突然 剪定され憂う気持ちに同感です。看板猫(白玉)のこと、保護猫の預かりやお客との引き合わせなどが微笑ましい。本文中に紹介されて知った作家さんや作品も興味深く、この書店でそっと売られている本たちが気になりました。パッと咲いた本よりも、ひっそりじわじわと散らずに読み継がれそうで……2024/02/29
遙
24
熊本にある橙書店店主さんのエッセイ。日々色々なお客様と交流を持ち、幅広い人脈を持たれている方で凄いなぁという印象。 橙書店の雰囲気もとても良く、物語の中にでてくる本屋さんのようで 多くの常連さんや、ファンの方が居るのも納得だなと思いました。 田尻さんと一緒に橙書店の空間も生きていて、人々に優しくしてくれてるような そんな気持ちになりました。 本屋さん良いなぁ。自分でも運営してみたいなんて思うけど 厳しいだろうなぁ・・・ 一度は訪れてみたい、橙書店。 他のエッセイも文庫化して下さるのを待ってます。2023/11/17
no.ma
20
最近よく行く本屋さんで見つけて、タイトルがいいので衝動買いしました。橙書店は熊本では有名な本屋さんのようで、次々に著名な方が登場します。それにしてもまさか村上春樹が登場するとは思っていなかったので、驚きました。きっと田尻さんのお人柄が人を呼ぶのでしょうね。丁寧で魅力的な文章を読むとよく分かります。解説の滝口さんが書いてますが、書店というのは本を買うためだけの場所ではなく、本に出会うための場所です。私もいい本に出会いました。2024/04/20
カエル子
8
熊本の橙書店。そこで緩やかに流れる時間と空間に居合わせる人たちの日常や非日常が穏やかに語られていた。自分がやりたいと思ったこと、背伸びし過ぎずにできそうだと思ったこと、自分だけじゃなく誰かのためにもなりそうなことを、地道にひとつずつ積み重ねてきたら村上春樹を迎えるほどになっちゃったって笑。素敵な店主さんなんだろうなー。本屋もステキだろうなー。熊本までわざわざ行きたいけど、白玉(猫)がいるしな……。仕方ないから代わりに横浜の「本屋・生活綴方」へ行ってみようか。2024/03/13
hatohebi
8
サード・プレイスとしての書店。地方における書店の意義について考える。今や都市圏においてすら大型店舗の閉店が続く中、どうやって私達は本に出会ったら良いのだろう。店頭で並ぶ表紙を物色し、気になるものを手に取ってパラパラと頁をめくる。そんな些細な行為が、知性や感性を触発する大切な契機となっているはずだ。本書は熊本から出たことがないという筆者が、突然思い立って始めたカフェ兼書店に集う人々や、日々の生活で感じたことを綴った随筆集である。2024/02/11