内容説明
人間の業を映す独自の作家活動を続けた森崎和江は、日本統治下の朝鮮に生まれた。大邱、慶州、金泉、現地で教師を務める父、温かな母と弟妹、そして「オモニ」たち――歴史的背景を理解せぬまま己を育む山河と町をただひたすら愛した日々に、やがて戦争の影がさす。人びとの傷と痛みを知らずにいた幼い自身を省みながら、忘れてはならぬ時代の記憶を切に綴る傑作自伝。
目次
序章/第一章 天の川/第二章 しょうぶの葉/第三章 王陵/第四章 魂の火/余章/あとがき/解説 松井理恵
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Ryoichi Ito
6
森崎和江は1927年韓国・大邸に生まれ,17歳まで大邸,慶州,金泉に暮らした。戦時中17歳で福岡に渡り女子専門学校に入学した。「植民二世」としての韓国経験をつぶさに記す。韓国は森崎にとって故郷であると同時に,植民者であることによる原罪意識の源でもある。森崎は,引揚者がすべて戦争の被害者であるかのような日本社会の認識に警鐘を鳴らしている。 2024/01/06
平坂裕子
2
日本による植民地支配下であった朝鮮。そこで暮らしていた日本人の姿、そして朝鮮の人々の想い、それぞれの立場は違えどもその時代は、共に生活をしていた。多感な少女時代、生活習慣や民族意識の距離を痛烈に感じながら・・。知らない事が沢山あって、日本人として歴史の中葬られて来た事をもっと知らなくて馬ならない。2024/02/08
クァベギ
1
植民地期朝鮮に生まれ育った森崎和江の回想。どことなくもの悲しい空気が漂う。当時は植民2世という立場だったから、幼少期を振り返るにしても故郷である朝鮮のことがなつかしいと無邪気には書けない。そういう障害があるゆえのもの悲しさなのだろう。2024/02/19
きょん
1
植民地朝鮮に生まれ育った筆者から見た、「ふるさと」と呼べない記憶。植民者の立場など自覚しようもない子どもだった自分の目から見えていた景色。懐かしむことも愛おしむこともできず、切なく苦しくやりきれない。こんな風にして、子どもの心に大きな傷を残してしまうのだ。2023/12/25