内容説明
犯人は誰? 探偵こそ誰?
時は明治、那珂川二坊は文学で名をなさんとす。尾崎紅葉に師事すれど執筆がかなうのは小説どころか三文記事ばかり。この日も簡易食堂に足を運び、ネタを探して与太話に耳を傾けた。
どうやら昨晩、かの徳川公爵邸に盗人が入ったらしい。蓋を開ければ徳川公にも家人にもこれと云った被害はなく、盗人は逃走途中に塀から落ちて死んだという不思議な顛末。酔客らは推論を重ねるが、「そりゃ違いますやろ」という声の主、福田房次郎が語り始めたのは、あっと驚く“真相”だった(「長くなだらかな坂」)。
京都・奈良をつなぐ法螺吹峠、ナチス勃興前夜のポツダム、魔都・上海ほか、那珂川の赴く地に事件あり、妖人あり! “歴史・時代ミステリの星”伊吹亜門が放つ全5話の連作短編集――
絢爛たる謎解き秘話を通して、
〈あの人〉たちの妖人ぶりにあらためて瞠目した
――有栖川有栖(作家)
著者の本領発揮作と呼ぶに相応しい完成度
――千街晶之(ミステリ評論家)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
夢追人009
224
冴えない無名の二流作家・那珂川二坊が明治・大正・昭和時代を生きる中で奇妙な事件に遭遇し実在する有名な人々に教えられ助けられたエピソードを記す全5編の歴史推理の連作短編集。架空の主人公による架空の事件簿ではありますが、この人ならばこれぐらいの推理はしたかも知れないなと思わせて丸っ切りの荒唐無稽とも言えない面白さが味わえました。ミステリの完成度としては戦時中の中国を舞台にした第4話が一番の出来で意外な展開と逆転のどんでん返しにやられましたね。先人へのリスペクトも感じられる好著でしたね。#NetGalleyJP2024/04/07
パトラッシュ
131
実在の人物と意外な事件を交差させる方法は小説の書き方として完全に定着しているが、またユニークなアイデアの新作が登場した。売れない作家の那珂川は明治から敗戦直後までの間に、大日本帝国の歴史を彩る思いがけぬ面々と邂逅していく。文化人から軍人、政治家にスパイまで伝説的な存在ばかりだが、まだ無名の若い頃に突拍子もない真似をやらかすドラマは、彼らが歴史に名を刻む前段階となるのだ。どれも遊び心たっぷりで楽しく読ませるが、語り手の那珂川が無名の文人という設定が物足りない。最後に彼こそ「実は」とやれたなら文句なかったが。2024/04/01
ちょろこ
114
二重に味わえる一冊。時は明治から昭和にかけて。鳴かず飛ばずの小説家、那珂川ニ坊が行く先々で遭遇する事件。そこにふっと絡み合うのは有名なあの人この人。紐解かれる事件の真相と、紐解かれる探偵役と化したあの人たちの正体に二重の面白さを味わえた。最後に思わず、あぁ、あなたでしたか…と言いたくなるほど見事な"妖人"っぷりの種明かし。と言ってもほぼお名前しか存じ上げない状態だったのが悲しい。ヒントはいっぱいあったのかな。舞台が上海の第四話は事件といい妖人の容赦ない冷ややかな言葉といい読み応え有り。時代と悲哀が沁みる。2024/04/05
aquamarine
60
尾崎紅葉に師事すれど執筆は小説どころか三文記事ばかり。そんな那珂川二坊はネタを探して、あるいは取材で様々なところに足を運ぶ。京都と奈良をつなぐ峠、ポツダム、上海…戦前~終戦直後という時代の中で那珂川の赴く地には事件あり、それを紐解く妖人あり。綺麗に解かれる謎にははっとしたり驚かされたりし、章の終わりにその妖人が誰かも明かされるので、文を追いながら想像するのも、知ってあらためて思いを馳せるのも楽しい時間だった。著者らしい、期待を裏切らない一冊。時代ならではの「御国のために」の大義名分が痛々しく印象的だった。2024/03/15
ケイト
58
売れない作家 那珂川二坊は取材現場で、色々な事件に出合う。その謎を紐解く妖人を探偵役に、謎解く連作短編集。明治・大正・昭和に活躍した偉人達の隠れた顔。名前を聞いたことはあっても無知なので、存じ上げない人もいた。特に2話と4話は不穏な時代、その時代の醸し出す雰囲気を楽しめたかな。2024/04/20