密航のち洗濯 - ときどき作家

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¥1,980
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密航のち洗濯 - ときどき作家

  • 著者名:宋恵媛/望月優大/田川基成
  • 価格 ¥1,980(本体¥1,800)
  • 柏書房(2024/02発売)
  • ポイント 18pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784760155569

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内容説明

〈密航〉は危険な言葉、残忍な言葉だ。だからこれほど丁寧に、大事に、すみずみまで心を砕いて本にする人たちがいる。書き残してくれて、保存してくれて、調べてくれて本当にありがとう。100年を超えるこのリレーのアンカーは、読む私たちだ。心からお薦めする。
――斎藤真理子さん(翻訳者)

本書を通して、「日本人である」ということの複雑さ、曖昧さ、寄る辺のなさを、多くの「日本人」の読者に知ってほしいと切に願います。
――ドミニク・チェンさん(早稲田大学文学学術院教授)

【本書の内容】
1946年夏。朝鮮から日本へ、
男は「密航」で海を渡った。
日本人から朝鮮人へ、
女は裕福な家を捨てて男と結婚した。
貧しい二人はやがて洗濯屋をはじめる。

朝鮮と日本の間の海を合法的に渡ることがほぼ不可能だった時代。それでも生きていくために船に乗った人々の移動は「密航」と呼ばれた。

1946年夏。一人の男が日本へ「密航」した。彼が生きた植民地期の朝鮮と日本、戦後の東京でつくった家族一人ひとりの人生をたどる。手がかりにしたのは、「その後」を知る子どもたちへのインタビューと、わずかに残された文書群。

「きさまなんかにおれの気持がわかるもんか」

「あなただってわたしの気持はわかりません。わたしは祖国をすてて、あなたをえらんだ女です。朝鮮人の妻として誇りをもって生きたいのです」

植民地、警察、戦争、占領、移動、国籍、戸籍、収容、病、貧困、労働、福祉、ジェンダー、あるいは、誰かが「書くこと」と「書けること」について。

この複雑な、だが決して例外的ではなかった五人の家族が、この国で生きてきた。

蔚山(ウルサン)、釜山、山口、東京――
ゆかりの土地を歩きながら、100年を超える歴史を丹念に描き出していく。ウェブマガジン『ニッポン複雑紀行』初の書籍化企画。

【洗濯屋の家族】
[父]尹紫遠 ユン ジャウォン
1911‐64年。朝鮮・蔚山生まれ。植民地期に12歳で渡日し、戦後に「密航」で再渡日する。洗濯屋などの仕事をしながら、作家としての活動も続けた。1946-64年に日記を書いた。

[母]大津登志子 おおつ としこ
1924‐2014年。東京・千駄ヶ谷の裕福な家庭に生まれる。「満洲」で敗戦を迎えたのちに「引揚げ」を経験。その後、12歳年上の尹紫遠と結婚したことで「朝鮮人」となった。

[長男]泰玄 テヒョン/たいげん
1949年‐。東京生まれ。朝鮮学校、夜間中学、定時制高校、上智大学を経て、イギリス系の金融機関に勤めた。

[長女]逸己 いつこ/イルギ
1951年‐。東京生まれ。朝鮮学校、夜間中学、定時制高校を経て、20歳で長男を出産。産業ロボットの工場(こうば)で長く働いた。

[次男]泰眞 テジン/たいしん
1959‐2014年。東京生まれ。兄と同じく、上智大学卒業後に金融業界に就職。幼い頃から体が弱く、50代で亡くなった。

目次

プロローグ

密航 1946
 関釜のあいだの海/蔚山からの密航船/K村の警防団/下関での感染拡大/仙崎港の朝鮮人たち/1946年のコレラ禍


第1章 植民地の子ども
1 朝鮮 1911‐24
 鯨のまち長生浦/方魚津の日本人町/蔚山の市街地/江陽里の老人たち/対馬の先へ/植民地都市釜山
2 日本 1924‐44
 関東大震災後の横浜で/東京で短歌に出会う/15年後の帰郷/ふたたび江陽里にて/東京に戻る/結婚と徴用
3 朝鮮 1944‐46
 朝鮮に逃げる/妻との旅(1)東京から釜山へ/妻との旅(2)釜山から兼二浦へ/1945年8月15日/妻との旅(3)38度線南下/帝国崩壊後の釜山/妻との旅(4)日山津から日本へ

送還 1946
 失敗した密航/ひと月遅れのコレラ猖獗/仙崎、佐世保、博多のコレラ船/針尾収容所から大村収容所へ

第2章 洗濯屋の家族
1 尹紫遠 ユン ジャウォン
 密航のち、18年の人生/自分ひとりの部屋/多摩川を泳いで渡る/故郷の戦争、弟の虐殺/横浜の検閲生活/売血もできない/米兵と黒人兵/洗濯屋のぬかるみ/ときどき作家/テープレコーダー
2 大津登志子 おおつ としこ
 満洲から38度線へ/朝鮮人との結婚/日本人と朝鮮人のあいだで/夫の日記と広島の教会
3 泰玄 テヒョン たいげん
 Money, money, money/中目黒の外国人たち/朝鮮学校の頃/夜間学校と祖国訪問団/国籍と永住の葛藤/三菱重工爆破と朴正煕暗殺
4 逸己 いつこ イルギ
 歴史を準備する人/女性でロボット屋で/混乱する国籍/差別と暴力と/少数者の痕跡

エピローグ
補遺 密航の時代

参考文献

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

遥かなる想い

100
第46回(2024年)講談社ノンフィクション賞。 戦後 朝鮮から日本に密航し、洗濯屋として生きた家族の物語である。 戦後 占領下のあった朝鮮と日本の風景が 日記の形で蘇る。貧困の中、朝鮮人作家と その家族はどう生きたのか…戦争に翻弄された 朝鮮人一家の苦闘の物語である。 2025/02/19

fwhd8325

72
素晴らしいという感想が的確かわかりませんが、このような作品は、たくさんの方に読んでもらいたいし、たくさんの方が知ってほしい内容だと思います。このような歴史をしっかり教育に組み込むことが大事なんだと感じます。今、一部の人だけでなく、国家がこうした歴史を繰り返そうとしている。2024/03/05

たま

69
尹紫遠さん(1911年生)は24年~44年を日本で過ごし、一時期朝鮮に戻るが46年、混乱を逃れて日本へ密航、針尾収容所に収容されるも逃げ出し、働きながら小説を書き64年死去。この時期の密航者がその経験を書き残した例は少なく著者は彼の足跡を辿る(1)。私には尹さんの家族が興味深かった。妻登志子さんは日本の裕福な家庭の出身 (2)。長男の泰玄さんは苦学して大学を卒業、外資系銀行に就職(3)。長女逸己さんも苦学しつつ結婚、離婚、町工場で働き親の面倒を見る。彼らの国籍の変遷、その複雑さに国と法律の非情を思う。2024/08/25

kawa

37
戦前から朝鮮半島と日本を行きつ戻りつ密航を繰り返した尹紫遠(ユン・ジャウォン)。戦後、零細クリーニング店を経営しながら作家を志したが、その作品は陽の目を見ることはなかったようだ。本書は、彼の作品の抜粋を交えながら、彼と家族の過酷で特異な人生を追う異色のオーラル・ヒストリー。本書に描かれるような、国家・国民間の軋轢の中で理不尽で言葉に言い合わせられない苦労を背負った人々は数多くいると想像するのだが、このような記録として多くの人に提示できることは稀なのだろう。そこにだけでも本書の意味が大いにあるのだと思う。2024/07/06

Kerberos

26
共著者のひとり望月優大は、急増する日本への移民問題の専門家としてさまざま情報発信している。しかしそのターゲットはいうまでもなく移民というプリズムを透して見える日本であり世界である。在日(朝鮮人・韓国人)の存在は日本固有の歴史問題のように見えるが、つまるところ人類普遍の問題である。主人公の尹紫遠は日韓併合期の在朝日本人問題をも浮かび上がらせた。歴史の掘り起しという意味で価値のある作品だ。それにつけても国境が存在し続ける限り移民は生まれる。「合法」移民でなければ「密航」と呼ぶ安易さに警鐘を鳴らす労作でもある。2024/04/04

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