内容説明
筆という卵が生み出すのは、武者か美女か、それとも鬼か。東海一の文化人と、松平定信の交流が心を揺さぶる。──直木賞受賞第一作!
かつては寛政の改革を老中として推し進めた松平定信は、60を過ぎて地元・白河藩主の座からも引退した。いまは「風月翁」とも「楽翁」とも名乗って旅の途次にある。その定信が東海道は日坂宿の煙草屋で出会ったのが栗杖亭鬼卵。東海道の名士や文化人を伝える『東海道人物志』や尼子十勇士の物語『勇婦全伝絵本更科草子』を著した文化人だ。片や規律正しい社会をめざした定信に対し、鬼卵は大坂と江戸の橋渡し役となる自由人であり続けようとした。鬼卵が店先で始めた昔語りは、やがて定信の半生をも照らし出し、大きな決意を促すのだった……。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
242
3月の一冊目は、永井 紗耶子、直木賞受賞第一作です。永井 紗耶子、3作目です。「きらん」て何かと思ったら、江戸時代の文化人、栗杖亭鬼卵(きらん)のことでした。松平定信との邂逅は、史実でしょうか❓ 本書で栗杖亭鬼卵を初めて知りました。 https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=00003829122024/03/01
パトラッシュ
196
老中を退隠後も理想の政治が達成できなかった悔恨を抱える松平定信が、謎の文人である栗杖亭鬼卵と語りながら己の半生を顧みていく。鬼卵が語る木村蒹葭堂を筆頭に上田秋成、円山応挙、海保青陵ら当代一流の文化人の自由な生き方は、吉宗の孫として己の信じる道こそ正しいと信じてきた定信の世界とはあまりに異質だった。政治に高い理想を求めた定信が、庶民は自分の目指す社会など望んでいなかったと知る有様は、現代にもある理想主義と現実主義の落差に重なる。知識人としての定信の成長を描く物語は地味ではあるが、滋味豊かなドラマを味わえる。2024/04/03
いつでも母さん
181
「世の中の、人と多葉粉のよしあしは、煙となりて後にこそ知れ」生きてるうちに、吸う前に評価を得たいと願うのは無粋極まりないーくぅ・・煙草の事はさておき、聞かせたい御仁のなんと多いことか。栗杖亭鬼卵の存在は知らなかったが、鬼卵と松平定信の会話というかその空気感が好かった。期待の永井さん、本作はその二人の出会いから始まるのだが、鬼卵の昔語りに私の意識も物語に引き込まれた。とは云うものの、既読の作品にみたドキドキや熱い昂ぶりは、今一つの感じだった(当方比です笑)次を楽しみにしたい。2024/02/14
hiace9000
163
江戸中期、東海道随一の文化人・栗杖亭鬼卵を主人公に元老中松平定信を絡め、数奇なるその半生語りで幕が上がる。多くの文人墨客との交わりを経て、手の内の「卵」を温めつつ、やがて才ある若者を育てる道に使命を見出すに至った自由人鬼卵。忠義と規律こそ天下泰平の礎と信じ、政に生涯を賭した定信。文学という虚を通じ、鬼や蛇を生み出す筆を求める道。剣と権の力を持ち、世を統べる道理を探す道。過去の人物や出来事に仮託し投影するのは、今なお地続きの人の生き方と社会課題への問いだ。諧謔の底に宿る心踊る反骨に、心はきっと動かされる。2024/03/06
fwhd8325
132
直木賞受賞作「木挽町のあだ討ち」は講談の連続物の面白さを感じました。この作品も同じように連続物としての要素もありますが、目で感じさせる物語だと感じました。それにしても江戸時代は、粋な世界だとつくづく感じます。2024/05/08
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