内容説明
寂れた島で過ごした夏、記憶の中で鮮やかさを増す夏、限りなく続く仮想の夏――夏を舞台とする4編に、青春のきらめきと痛みを封じこめた、第12回創元SF短編賞受賞作を表題とするデビュー作品集。/【目次】「射手座の香る夏」意識の転送技術を濫用し、危険で違法な〈動物乗り(ズーシフト)〉に興じる若者たち/「十五までは神のうち」出生の〈巻き戻し〉が合法化された日本で、過ぎ去りし夏の日の謎を追う男性/「さよなら、スチールヘッド」限りなく夏が続く仮想世界で、自らの身体性に思い悩む人口知性の少年少女/「影たちのいたところ」少女の憂鬱な夏休みにある日現れた、九つの“影”をつれた男の子/解説=飛 浩隆
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
みっちゃん
121
ジュブナイル小説にはやはり夏がよく似合う。強い自我と自負、未来への希望、相反するような将来への不安、そしてほのかな恋。が、ここに収められた4編は主人公達の置かれた環境、その物語設定がどれも独創的。だけど今、この星が直面している問題と地続きのそれでもあるから荒唐無稽とも思えず。創元社SF短編賞受賞も頷ける。が、その設定の見事さ、人物の細やかな心理描写の割りにはラストのオチがどれも尻すぼみ、には感じてしまった。が、またこれからが楽しみな作家の登場であることは間違いない。2024/07/09
小太郎
41
4編の短編集。この中では「射手座の香る夏」は創元のアンソロジー「Genesis 時間飼ってみた」で読んで気になっていました。4編どれもが夏を舞台にした青春物、SFとは親和性があるモチーフです。SFでもこういう雰囲気で読ませるタイプがあって良いとは思いますが。どれもが詰めが甘いというか雰囲気だけで終わってしまっているような気がして勿体ない感じです。だいぶクオリティは違うけど後書きを書いている飛浩隆さんの「グランヴァカンス」をちょっと思い出してしまいました。★2.52024/08/29
ひさか
29
4つの短編に飛浩隆さんの解説を加えて24年2月創元日本SF叢書から刊行。いずれもアイデアが秀逸で期待値は高いのだが、展開がややチープで残念。意識は1箇所にしか存在できないというドグマと人の意識を外部ハードウェアに転送できる技術が可能な世界をサスペンスフルに描く表題作が面白いが、やや工夫不足。微細質量を過去に送る技術で、15歳の子供を中絶する薬剤を過去の母体に送るという十五までは神のうちも展開がわざとらしい。人工知性が暮らす仮想世界や、人の影が独立して存在出来るようになった未来世界は妖精ファンタジーだ。2024/06/24
ほたる
16
あぁSFって面白いなって思わされる一冊。登場人物同士の関係性の描き方が情緒溢れるものになっていて、それがなぜそのように描けるのかはその世界観がそうさせている。「影たちのいたところ」冒険譚のようで少女のワクワクする気持ちが伝わってきてこちらも楽しい気持ちになる。 「さよなら、スチールヘッド」最もSF色が強くその幻想的な語りにうっとりとさせられる。「十五までは神のうち」少年少女の想いが謎が解かれるとともに明かされる。そしてそれはSFの設定があるからこそこの描き方が出来る。凄まじい。2024/02/29
イツキ
12
SF設定と青春の甘苦さややり切れなさが見事に調和した短編集でした。特に「十五までは神のうち」が良かった、極小のタイムマシンの実用化に伴い15歳を迎えた子供に出生を追認する権利が与えられた世界の話。突然子供が消え記憶だけが残された親や周りの人間の苦悩、それを望まざるを得なかった子ども自身といった事柄も印象的ながら、記憶を頼りに故郷を巡りながら思い返される主人公の子供時代の記憶の鮮やかさと美しさが非常に印象的でした。2024/04/20
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