創元文芸文庫<br> イギリス人の患者

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創元文芸文庫
イギリス人の患者

  • ISBN:9784488805036

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内容説明

王に名を消し去られた風、部族ひとつを溺れさせる砂の海、泳ぐ人々が壁一面に描かれた泉の洞窟――妖しくも美しい情景が、男の記憶には眠っていた。砂漠に墜落し燃え上がる飛行機から生き延びた彼は、顔も名前も失い、かつて野戦病院だった屋敷で暮らす。世界からとり残されたこの場所に、一人で男を看護する女性、両手の親指を失った泥棒、爆弾処理班の工兵と、戦争の癒えぬ傷を抱えた人人が留まり、男の物語に耳を傾ける。それぞれの哀しみは過去と現在を行き来し、記憶と交わりながら、豊饒な小説世界を展開していく。英国最高の文学賞、ブッカー賞五十年の歴史の頂点に輝く長編。/解説=石川美南

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

buchipanda3

111
「砂漠は風に舞う布。誰のものでもなく、誰も所有できない」。四人が集う場所は戦争の終結を迎えるフィレンツェの古い屋敷。しかしその者たちの心はそこには無い砂漠へ誘われる。戦争の疵を癒すように互いの物語を語る四人。中でも火傷で何者か判別できない患者による愛の物語はそれぞれが抱えるもどかしさを浮かび上がらせる。国があることによる戦争。区別があることによる疎外感。向き合った生死の意味。彼は砂漠の無色無地を擬した喩えのよう。理想から遠い現実はいつか辿り着くのか。静かな月の光を思わせる端正な文章に浸りながら読み終えた。2024/01/21

たま

64
とても期待して読んだ。イメージは期待通りの美しさだが、『アニルの亡霊』と同じく戦争が背景なのにリアリティに欠け、物語に入っていくのが難しかった。特に砂漠探検家の探検、恋愛、火傷の部分は甘っちょろいものを感じた。シーク教徒の工兵パートは爆弾処理作業の緊張感にリアルを感じて面白く読んだ。それでも結末の行動は唐突でメッセージをくっつけたよう。ハナが探検家を看護する崩壊した屋敷の描写が長いが、このあたりのイメージは廃園の美の綴れ織のようで新古今的-東洋的な印象だった。イギリスの詩にこういうものがあるだろうか。2024/04/15

道楽モン

42
鳥取砂丘も見たことが無いくせに、心はアフリカの砂漠を彷徨う。想像でしかないイタリアの廃墟。この2地点を行き来しつつ読書は進む。第二次世界大戦末期、運命に手繰り寄せられたかの様に修道院の廃墟に集いし4人。ナチスによって隠された爆弾の処理を施す兵士、全身火傷を負ったイギリス人らしき患者のケアに没頭する看護婦、彼女の父親の親友である男。詩的な文体で、アジール的空間の静謐さを描きつつ、徐々に語られてゆく各自の人生。戦争を舞台に、作者自身の体験も織り込まれた静かだが熱い物語。爆弾処理のインド人の成長譚に心踊った。2024/05/13

Shun

39
ブッカー賞50周年の際に歴代作品から選ばれた最も優れた受賞作で、受賞年は'92。世界大戦の最中、砂漠に墜落した飛行機から生還した身元不明でイギリス人と思われる男がいた。男には酷い火傷の痕が残り、彼を献身的に看病するカナダ出身の若い看護婦とで廃墟と化しつつある屋敷での暮らしが描かれる。やがて男の口から紡がれる物語は、戦争の中にあってどこか幻想的で美しい情景すら浮かんでくる。そしてまた廃墟に同じく戦争で傷を抱えた元盗人の諜報員やインド人の爆弾処理専門の工兵らが加わり、語られるべき物語が小説の世界を作っていく。2024/05/05

星落秋風五丈原

35
【ガーディアン必読1000冊】ハナがずいぶんと他の主人公より幼い印象。登場人物が等分に描かれている。映画とはまた別物。2024/07/21

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