内容説明
ヒューは最初、ただの森だと思った。アメリカの地方都市の郊外なら、どこにでもありそうなありふれた森……。だが、ここに来てさわやかな小川の流れに身を任せると、まるで心が洗われるような気がする。なんどか訪れるうちに、奇妙なことに気がついた。朝だろうが昼だろうがいつ来てもこの森は“たそがれ”の時間なのだ。しかもここへ来ると、いつも時計が止まってしまう……そんなある日、ヒューはそれまでだれ一人見かけず、自分だけの場所だと思っていたこの“始まりの場所”で一人の少女に出会った。その時は、やがて二人して、恐るべき冒険の旅に出ることになろうとは、思いもしなかったのだが……。SF界の女王アーシュラ・K・ル・グィンが“アナザー・カントリー”へとあなたを誘う、傑作ファンタジイ!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
roughfractus02
8
森は時の流れを変えるがそこはまだ入口だ、と作者は考えているようだ。どちらも親からの束縛に悩む少年と少女が出会う森は、いつも夕暮れで時の流れが遅く、2人に安息と自由を与える。が、古今の物語は森を冒険の始まりの場所として扱ってきた。ゆったりした時間は何かが始まる前兆を示す。同じ作者の『どこからも彼方にある国』と設定は似ているが、ユングの意識と無意識の対話からなる自己を2人の対話に託した前作に比べ、本書はこの自己からなる迷宮世界を2人に彷徨わせる。読者もセラピストのように寓意に満ちた物語のメッセージに向き合う。2024/01/16
卯月
3
再読。父に捨てられ異常に束縛する母と暮らすヒューは、レジ係として働き勉学も叶わない。森の中に、常に夕暮で時の流れの遅い世界を発見し、自分だけの安息の地と思っていたが、そこでイレーナと出逢う。彼女も、現実に居場所がなかった。再婚夫に殴られる母を見捨てられない、それも束縛。夕暮の里、山の町に住む人々に危機が迫るが、人々は町を出ることが不可能。乞われた二人は、詳細不明のまま、迷宮を彷徨うような旅に出る。白い盲の化物。精神的親殺しのファンタジー、なのだけれど、閉塞感に感情移入し過ぎて自分自身の怒りが再燃してくる。2016/06/12
awa
1
久々に再読。かなり読みやすい。主人公達は成人しているがジュブナイルに近い。異世界のイメージが好き。2014/07/06
isbm
0
★★☆2017/09/26
ocean
0
暗喩、寓意、象徴に満ちた大人向けファンタジー。ル・グィンの長編にしてはスケール感に乏しいし、面白みにもやや欠けるけれど、なかなか奥の深い不思議な作品です。2013/11/07