内容説明
パスタを一本つまみ上げ、噛んでみる。まだ少し早い。水洗いしてボウルに入れておいたレタスに手を伸ばそうとしたとき、金属音と、それに続いて重いものが屋根を転がり落ちていく音が聞こえた。誠が屋根から落ちたのだ。もう少し待ってくれてもいいじゃないの、パスタが無駄になっちゃうわ。いつも間が悪いんだから――夫の“事故死”をめぐり、一見おっとりした妻の中本さゆりと福家警部補が熾烈な心理戦を繰り広げる「上品な魔女」ほか三編を収録。類稀な洞察力を駆使して容疑者たちと対峙する警察官名探偵の活躍を描き、現代の倒叙ミステリを代表するシリーズに成長した〈福家警部補の事件簿〉第五集。/【目次】是枝哲の敗北/上品な魔女/安息の場所/東京駅発6時00分 のぞみ1号博多行き/解説=小出和代
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
107
「冷静、明晰、頑固、そして愛嬌」。これは作中で犯人が福家警部補に完敗した時に彼女を称した言葉。客の素性を見抜くことに長けたバーテンダーである犯人は、初めて警部補に会った時に相手が何者か捉えられなかった。ようやく全てを理解した時にはもうお手上げ。そう、彼女に会った時点で犯人たちは既に負けが確定している。そんなお決まりのパターンなのになんで面白いんだろうっていつも探求しながら読んでいる。ただ今回、そんな警部補が動揺する場面があり驚いた。2篇目の犯人の言葉に戸惑う姿。そこに警部補の正体の一面を垣間見た気がした。2023/12/14
HANA
68
倒叙ミステリシリーズ五作目。短編四編が収録されているが、それぞれ違った趣向が凝らされていて非常に読み応えのあるものばかり。特に面白かったのは「東京発6時00分のぞみ1号博多行き」かな。偶然犯人と同じ列車に乗り合わせた福家警部補が京都に着くまでというタイムリミットの中で真相に迫るという構成が実に面白い。外部との限られた情報の遣り取りも警察という組織の長所を見事に生かしている。それにしても福家警部補、シリーズが進むにつれてますます人間味が薄れていくなあ。デウスエクスマキナか中世欧羅巴の舞台劇の運命みたい。2024/03/11
nemuro
53
大倉崇裕の既読は『福家警部補の挨拶』(函館市中央図書館/単行本/2009年11月読了)から『ゾウに魅かれた容疑者 ~警視庁いきもの係~』(市立富良野図書館/単行本/2022年2月読了)まで16冊(14作品)。うち<福家警部補>シリーズが6冊(4作品)。最新刊にして第5弾の本書を含め本棚には文庫版5冊が並ぶものの、専ら既読は図書館本(単行本)。「再訪」のみ文庫版(2013年8月読了)でも再読。小出和代氏の「解説」に「福家も、コロンボ同様、ファーストネームが分からない」。そうか、迂闊にもずっと気付かずにいた。2024/07/20
sin
53
病院…感情を表にすることのない警部補だが、どうやら怒っているようだ?女性にだらしない男に対する嫌悪感か、責任ある立場に相応しくない行動に対する義憤だろうか?家庭…なんともマイペースな主婦ではあるが、ペースを乱されたのは彼女の方で警部補の揺るぎない追求が上!バー…職業に対する矜持から犯罪に手をそめたが、職業に対する配慮から馬脚を露わす。新幹線…小冊子にタイムリミットサスペンスの趣向とあるが、バックアップする刑事たちの苦闘が描かれていないので切迫感はない。無理くり感が否めないものの意表を突く最後のオチに納得⁉2023/12/16
hanchyan@ふむ……いちりある
36
お久しぶりの福家警部補。いけ好かないセレブが墓穴を掘って次々と破滅していくこのシリーズ(笑) その犯人像として、第1話の是枝哲が、いかにもいかにもな造形でウヒヒ♪てなる。←という具合に、いきなり犯人を名指ししてもネタバレにならない倒叙もの。本格ミステリなのに感想書くの楽だわ~(笑) 第2話の序盤の構成は「おや?これって……」と、何年か前の翻訳ミステリランキングを賑わせた某作品を彷彿とさせるぞ。……って、やっば結局ミステリの内容に触れるときには言い方に配慮しちゃうよね(笑) ともあれ、とても面白かった。 2024/04/03
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