内容説明
宇宙空間でのワープに際して生じる、空白の七十四秒間。この時間の存在を認識し、襲撃者の手から宇宙船を守ることができるのは、マ・フと呼ばれる人工知性だけだった――ひそやかな願いを抱いた人工知性の、静寂の宇宙空間での死闘を描き、第8回創元SF短編賞を受賞した表題作と、独特の自然にあふれた惑星Hを舞台に、乳白色をした8体のマ・フと人類の末裔が織りなす、美しくも苛烈な連作長編「マ・フ クロニクル」を収める。/【目次】七十四秒の旋律と孤独/マ・フ クロニクル/一万年の午後/口風琴/恵まれ号 Ⅰ/恵まれ号 Ⅱ/巡礼の終わりに/文庫版解説=石井千湖/*本電子書籍は、『七十四秒の旋律と孤独』(創元SF文庫 2023年12月初版発行)を電子書籍化したものです。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
柊渚
23
破れていく空気と火花の残像。宙を舞う、かつて彼だったものの欠片。透明な硝子の瞳に映りこんだそれは鮮烈な美しさを放っていた。人間によって創られた人工知性〈マ・フ〉。絶滅したと思われていた人間と彼らがふたたび出会ったことで、物語の歯車は壮大に廻り出す。SFでありながら、まるで詩篇のような。ひどく脆く残酷で、けれどもなんて美しい世界。読後に訪れる静寂が心地よくて温かくて、涙が出ました。とても、とてもよかった。大好き。きっとこの先何度も何度も読み返したくなるであろう、宝物のような物語がまたひとつ。2024/01/13
ふりや
19
某アンソロジーで表題作だけは読んでいたのですが、その後に刊行された単行本を読もう読もうと思っている間に文庫化されたので、この機会に購入しました。表題作とその後に続く連作短編を含め、とても素晴らしい作品でした!「マ・フ」と呼ばれる人工知性の、気が遠くなるような長い年月の活動の記録、そして人間との交わり。徐々に明かされる秘密や、連作ならではの仕掛け、終わり方も美しいです。心に沁みました。ヒトではなく人工知性の側から物語るという形式も非常に面白かったです。同じ著者の『わたしたちの怪獣』もぜひ読んでみたいです。2023/12/14
秋田健次郎
14
壮大な大河SF。機械生命である「マフ」目線で描かれる物語はAIものでありがちな、硬派で論理的な描写ではなく、むしろ詩的で精緻な心理描写が目立つ。加えて、人間ドラマも魅力の大きな部分であり、AI系SFとは思えない切なさや虚しさなんかの情緒を感じられる。読み始めた時は文学寄りな作風の印象だったが、読み進めていくとちゃんとエンタメ作品としての展開もしっかりしていて、純粋にストーリー展開も楽しめた。程よい伏線の具合から、心地よい読後感まで、純粋に読んで良かったと思えるSF小説でした。2024/01/05
huraki
9
宇宙空間の瞬間移動の際に生まれる空白の時間。人が認知することが出来ない七十四秒の間、襲い掛かってくる海賊から宇宙船と船員たちを守る人工知能の戦いと思いを描いた表題作を含む中短編集。宇宙を漂うように静謐に紡がれる文章が心地よい。同じく収録されている、創造主であるヒトとの邂逅をきっかけに、聖書に従い規則的に暮らしていた人工知能の顛末を描く長編も面白い。歴史や伝承を信じ、守り続けてきた世界で自我や感情が芽生えた彼らに起きた変化が切なくも美しい。物語は大きな力を秘めていて、これからも語り継がれていくのだ。2024/01/14
へ~ジック
9
世界は残酷で美しい。そういったのは進撃の巨人のミカサだった。この本は世界は醜くて、だから美しいとなるだろうか。表題作をプロローグとする2万年にもわたる連作短編集。そこから1万年の後に人間と友誼を結び、破綻し憎み合い、そして時の果てに赦して去って行く小さな人工知性たちの物語。2024/01/11